近ごろ「セルフ○○」が様々な分野で広まっている。今までプロにお願いしていたエステや脱毛、整体など動画などを参考に自分で施術するというのである。ただ、その動画の通りに自分でやっても、動画のようにうまく出来なかったとき、自分の失敗を認めるのは難しいらしい。ライターの宮添優氏が、動画の真似をして失敗したことを認められず、酷い場合は現実にトラブルを起こしてしまう人たちに振り回される周囲の人々の苦悩をレポートする。
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「真夜中に急患なんて珍しいと思っていましたが、同業者に聞いても、最近は、たまにあるというんです。患者さんに聞けば、ネットで整体師の動画を見て自分でやろうとして、おかしなことになったと仰るんですね」
千葉県内の整形外科医・伊藤篤さん(仮名・50代)は、コロナ禍で皆が外出を控えていた頃から、首や腰を痛めたと言ってやってくる患者が増えたことに違和感を持った。ストレスが多くなっているだろうから、不調を訴える患者が増えたことは珍しくないと受け止めていたが、彼ら、彼女らが問診時に、なぜ痛みが出るに至ったかをハッキリ言わないことが不可思議だった。
「普通はあるじゃないですか、スポーツやっていたらとか寝違えたとか思い当たるフシが。さらにみなさん、日常生活をしていたらここは痛めない、というような箇所の痛みを訴えられる。それでもっと詳しく聞くと、実は……という感じでお話になる。患者さんなりに、やはり後ろめたいのでしょうね」(伊藤さん)
目の前の医師よりネット動画を信じる患者
伊藤さんが違和感を抱いていた患者のほとんどが、問い詰めると「ネット上で見た整体の真似をした」結果、体の一部を痛めていたのだ。夜などにひとりきりで、部屋で動画を見ながら”セルフ整体”をしていたところ、強い痛みに襲われ、どうしようもなくなって夜間に伊藤さんの病院に駆け込んだ、という例もあるという。
「どんな動画を見ているんですか、と見せてもらい、驚きました。整体師を名乗る日本人や外国人の動画がたくさんあって、いろんな動画を参考にして、自分で整体をしていると言っていました。もちろん、自分ひとりで気軽にできるストレッチなどもあるにはありますが、そこで紹介されていたのは首や腰を強く捻ったりするなど、医師や専門家がいない中でひとりで行うには危険な行為も紹介されていました」(伊藤さん)