ただし、そうした中でも気遣いが大切だと語る。
「選手もプレーに集中していて、気が張り詰めているので、“遅いですよ”“ペナルティになりますよ”と言ってしまうとカチンとくるでしょう。だから“前の組がいないですね”というような声掛けをしています。
遅れているかどうかは、ミドルホール(パー4)のティーイングエリアが一番わかりやすい。前の組がセカンド地点どころかグリーンにも姿が見えなければ、まるまる1ホール離されていることが選手の目からも明らかです。そこでティーショットの前に、“前の組がいないですね。頑張ってペースアップしてください”と伝えるようにしています。競技委員の姿を見ただけで過敏に反応する選手もいますから、声を掛けるタイミングは難しいですね」
ペ・ソンウの“ホールインワン未遂”
ゴルフが他のスポーツ競技と異なるのは、前述したように「審判はプレーヤー自身」という点にある。競技委員はあくまで選手によるジャッジのサポート役という立場だ。
「ゴルフの審判は誰かというと、“ゴルフ規則(ルールブック)”です。選手が競技委員という“人間”を尊重するかどうかではなく、ルールブックを尊重することが重要なんです。なので私は選手から不服を訴えられても、最終的には“ルールにはこう記されています”と言ってルールブックを見せ、“規則書にあることは覆りません”と伝えます。“私に従いなさい”ではなく、“ルールに従いましょう”が大前提なのです」
それを象徴する場面が、2023年の日本女子オープン3日目にあった。7番パー3でペ・ソンウのティーショットが美しい放物線を描きながら直接カップに飛び込み、“ホールインワンだ!”と歓声が上がった。
ところがグリーンに行ってみるとボールはカップの縁に突き刺さった状態で、8割方カップ内にあったものの一部はグリーン面より上の高さだった。競技委員による確認が行なわれた結果、「ホールインワンではない」と判断され、ペ・ソンウは残念そうな表情でカップ横にリプレースし、第2打となるバーディーパットを決めた。
門川はこの場面には立ち会っていなかったものの、同じコースで競技委員を務めていた。