「別の場所で遅れていた組の計測をしていましたが、イヤホンから入ってきた情報を聞き、“これは滅多に見ないケースが起きているぞ”と感じていました。規則書の事例には“ボールがカップ内側の側面に食い込んだ場合、ボールのすべての部分がパッティンググリーン面より下でなければホールに入ったとみなされない”とあります。ボールがピン(旗竿)に寄りかかっている場合は、ボールの一部がパッティンググリーン面より下にあればホールインと認められますが、カップの壁面に食い込んだケースではボール全体がパッティンググリーン面より下にないとダメなのです。
もっとも、実に稀なケースですからペ・ソンウ選手が“これはホールインワンでしょう”と主張したのも仕方ありません。普段は穏やかでルールもよく理解しているプレーヤーですが、これに関しては“判定に納得できない”という様子でした。ですが、英語バージョンの規則書の事例を見せたところ、納得してくれたそうです」
ゴルフは何が起こるかわからないスポーツだが、そこまで想定してルールブックは作られている。そんな“10年に一度あるかないか”の状況であっても、競技委員はすぐにルールブックをその場で紐解き、判断しているのだ。
(第4回に続く)
※『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。ゴルフの競技委員のほか、野球、サッカー、大相撲など8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が好評発売中。