【書評】『ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト 女性たちと映画をめぐるガイドブック』/降矢聡+吉田夏生・編 グッチーズ・フリースクール監修/フィルムアート社/2530円
【評者】鴻巣友季子(翻訳家)
映画には「男性のまなざし(メイル・ゲイズ)」が横溢している。その背景には、映画業界における「(作り手としての)女性の不在」があると、本書の巻頭鼎談で吉田夏生が指摘している。私も調べてみたが、ある資料によると、2011年には、アメリカ映画の監督の男女比率はなんと95.9%対4.1%で、2022年でも85.4%対14.6%だった。
女性の視点から作られた映画がもっとあっていいはずだ。「女性の映画」を紹介した総合ガイドブックが本書である。
第一章「スクリーンの中の女性たち」では、テーマ別に映画の中の女性たちをとりあげ分析する。たとえば、「恋愛」における女性像はどう変遷してきたか。女性監督の草分けアニエス・ヴァルダの『幸福』に始まり、『卒業』『ある愛の詩』『ゴースト』『プリティ・ウーマン』など紹介されるが、このへんはまだ男性側からの物語だろう。近年の『燃ゆる女の肖像』や違法中絶を壮絶に描いた『あのこと』などとは隔世の観がある。
女性の「青春」像はどう変化してきたか。こちらもヴァルダを起点に、前半は「男性のまなざしをあえて引き受けてきた女性」や「ファム・ファタール」といった男性視点の映画が多く、シャンタル・アケルマン監督やニナ・メンケス監督の作に行き着くまでにだいぶかかる。それだけ名画にはメイル・ゲイズの作品が多いのだろう。
「闘争」の項目では、「レイプ-リベンジ映画」が紹介され、後半を占めるグリフィス論に至るまで読み応えがある。「彼女たちの闘争」と題するからには、一九七〇年代の『リップスティック』といった復讐映画以降の、マリア・シュラーダー監督やサラ・ポーリー監督などによる女性が暴力以外で闘う映画も知りたくはあった。
全体的に新世代の監督や作品の扱いが小さめな気もするが、各国の女性監督の仕事をまとめた第二章「彼女たちの映画史」は圧巻の資料だ。赤坂太輔による「旧ソ連・南米・南欧」の項目なども非常に貴重である。
※週刊ポスト2024年6月21日号