まもなく梅雨シーズンが到来。雨が続き気分が落ち込みやすい時期こそ、読書で気分転換してみてはいかがだろう。おすすめの新刊を紹介する。
『死んだ山田と教室』/金子玲介/講談社/1980円
交通事故で死んだ男子校二年E組の山田。が、教室のスピーカーから彼の陽気な声が。自分が死んだことを知らされると「うわぁ〜まじか〜最悪だ」。教室に笑いが広がる。クラスを盛り上げる達人で人気者だった山田。しかし同級生達も卒業し大学へ。事故の真実、山田の核心。スピーカーに閉じ込められた孤独な彼を誰が解放するのか? 納得するけど、こんなラストは嫌(泣)。
『告白撃』/住野よる/KADOKAWA/1650円
会社の同僚と婚約した29歳の千鶴。仲間を式に招待するに当たり、親友響貴が自分への思いを断ち切り、濁りのない気持ちで出席してくれないかと願う。そのために彼を完全失恋させねば。かくして告白させる作戦を展開するが…。失恋話をさんざん響貴に聞いてもらってきた千鶴。その際に響貴の胸を射ぬいた言葉。複雑な心の揺れの物語だが、未来に向かう友情にちょっと胸アツ。
『水たまりで息をする』高瀬隼子/集英社文庫/594円
東京で暮らす30代半ばの共働き夫婦。夫は最近お風呂を使った形跡がない。聞くと「風呂には、入らないことにした」と。水道の水がくさくて痛いとひっそり呟く。夫の異変は昂進し、ついには会社も問題視。先の読めないスリリングさ(芥川賞候補作)。体臭、ミミズの生臭さ、潮の香などに嗅覚を刺激され、ラストの水のイメージは圧倒的。妻の言えなかった一言が胸に痛い。
『岸惠子自伝 卵を割らなければ、オムレツは食べられない』岸惠子/岩波現代文庫/1210円
副題の「卵を〜」はフランスの諺で、何かを成し遂げようとしたら多少の犠牲(痛み)が伴う、というような意味。名エッセイストとしても知られる著者が生地横浜と家族、仏人監督と結婚したパリでの異文化体験、離婚後に国際ジャーナリストとして鍛えた視野などを語る。国際的女性という言い方では足りない“生のセンス”にただ脱帽。文章にもキリッとした美しさがみなぎる。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年6月27日号