病気を治すためにのんだはずの薬に体が蝕まれてしまう──多くの専門家たちはそんな“不都合な現実”が存在することを、繰り返し指摘してきた。しかし一方で「のむべき薬」を減らすこともまた不調を生む。「必要な薬を、必要な分だけ」を実践するための方法を専門家に徹底取材。【前後編の前編。後編を読む】
《薬は過ぎれば毒になる》《一度に多くの種類を服用すると副作用が倍増する》──「薬ののみすぎ」に伴う危険性は近年、専門家たちの調査研究や臨床経験から次々に明らかになってきている。
にもかかわらず、年を重ねるとともに服用量が増加するケースは少なくなく、厚生労働省の発表によれば40〜64才では半数以上の人が3種類以上の薬を処方され、75才以上になると約4割の人が5種類以上の薬をのんでいる。東京都在住のKさん(72才/女性)もそのひとりだ。
「いま、1日にのんでいる薬は6種類。きっかけは10年くらい前にひざの痛みで通い始めた整形外科から鎮痛薬を処方されたことでした。その副作用を抑えるための胃薬が出た後、ひざの痛みで運動量が減って骨密度が低くなったから骨粗しょう症の予防薬をのむように。加えて、3年前に健康診断でコレステロール値と血圧が高いと言われてからさらに3種類増えて……。
よく“薬ののみすぎはよくない”といわれますし、実際、薬が増えてから日中、ふらつくことが多くなった。だから思い切って鎮痛薬と胃薬をやめてみたら、ひざの痛みが悪化して1週間ほど寝込んでしまったんです。そもそも具合をよくするためにのみ始めたはずの薬を、どう減らせばよかったのか……正解がわからず、結局6種類をそのままのみ続けています」
医療法人社団こころみ理事長で精神科医の大澤亮太さんは、Kさんのように減薬に失敗した結果、治療が複雑化する事例は少なくないと話す。
「もちろん薬の量を適正化することは大切ですが、必要な薬もあり、ただ減らせばいいという単純なものではありません。減らし方も、薬ごとの特徴を踏まえて行っていく必要がある。間違った減薬は、のみすぎと同じくらい害悪を生みます」