湿度が高く蒸し暑い日々が続いているいま、気分が落ち込み、体調不良に悩まされる人も少なくないだろう。そんな時は、活字の世界に没頭することでリフレッシュ。おすすめの新刊を紹介する。
『読んでばっか』/江國香織/筑摩書房/1980円
バスタイムは読書タイム。江國さんは毎日2時間お風呂に入るとか。その“成果”を集める。絵本、童話、小説、海外ミステリーなどが並ぶ中、江國さんにしか書けない比喩だなと感じ入ったのはこれ。佐野洋子さんのことを「ちょっと日にちの経ったパウンドケーキみたいに乾いた声で話す」人だった、と。取り上げられる本への興味もさることながら、江國さんの文章が何より素敵。
『力道山未亡人』細田昌志/小学館/1980円
本書の主人公は横浜出身の田中敬子さん。冒頭に1963年の力道山刺傷事件を置き、敬子さん自身の時間に遡る。日航の国際線スチュワーデス時代に力道山の猛アタックで結婚するも22歳で未亡人に。莫大な負債に翻弄された。著者の取材対象に敬子さんを推薦したのは日航同期の故安部譲二氏。敬子さんの天性の明朗さと対照的にカネと利権に群がった人々の欲望がすさまじい。
『闇祓』/辻村深月/角川文庫/968円
転校生の白石要がいきなり言う。「今日、家に行ってもいい?」。動転した原野澪は憧れの先輩に助けを求めるが……。題名は闇ハラスメント(略して闇ハラ)の意。学校、地域、職場などの人間関係の中で闇に浸食され壊れていく人々を描く4章を経て、最終章で全てが繋がる構成は読みでたっぷり。これはエンタメ・ホラーではなく、現代社会の写し絵との思いを強烈に抱く。
『わかりやすさの罪』/武田砂鉄/朝日文庫/946円
前から気になっていたセリフがある。「あの人の話ってわかりにくいのよ」。かなりの上から目線(=俺様にわからせろ)だ。そんな風潮に気鋭の著者がもの申す。簡単にわかると取りこぼすものが出てくる、と。解説のTaiTanさんは「断定は売れる」と過去を懺悔。これを書いている今は都知事選まっさかり。わかりやすい断定花盛り。読者・視聴者・有権者、ナメられてますよ……。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年7月11・18日号