松阪牛、神戸牛、飛騨牛……日本国内で大切に育てられた「和牛」は、いまや世界的なブランド。だがひと口に「日本の牛」といっても世界が認めるブランド牛から、健康被害のリスクのある“国産牛”までさまざま。「国産だから安全」とは、もう言えなくなっている現実がある。【前後編の後編。前編から読む】
抗生物質から生まれる超多剤耐性菌
闇が潜んでいるのはえさだけではない。狭い環境で密集して育てられることの多い日本の牛は、感染症を防ぐために抗生物質が投与されることが少なくない。立命館大学生命科学部教授の久保幹さんが語る。
「衛生面はもちろん、動物福祉の観点から見ても、感染症予防のための抗生物質の投与は避けては通れません。しかし長い目で見れば、食を取り巻くさまざまな分野への弊害が懸念される。
例えば、抗生物質を投与された牛のふんで堆肥をつくると、畑の土壌にも抗生物質が混じって、農業に必須の細菌繁殖に影響を与えるのです」(久保さん)
基準値以下であれば、抗生物質を投与されたからといってその肉を食べてすぐに健康被害が出るわけではない。だが、抗生物質を投与された牛の肉が何年も流通し続けることによって“最強の病原菌”を生む可能性があると、消費者問題研究所代表の垣田達哉さんは警鐘を鳴らす。
「抗生物質を使い続けると『スーパーバグ』といって、抗菌薬が効かない超多剤耐性菌が生まれます。いま存在しているあらゆる薬が効かないので、スーパーバグによる感染症は治せません」(垣田さん・以下同)
実際にアメリカでは2015年にウエストウッドのロナルド・レーガンUCLA医療センターにて、十二指腸内視鏡から179人がスーパーバグに感染したとみられる事例が発覚した。うち2人は死亡したという。
「牛の感染症予防のためには、抗生物質の使用は避けられません。『JAS認定牧場』のものであれば、出荷6か月前からは抗生物質を使用しないなどの安全基準があり、認定されていない牧場のものよりは安心。
ですが、それ以前には使用している可能性があるため、抗生物質によるリスクを100%避ける手立てはないのが現状です」