沼津駅から富士山を背に、観光スポット沼津港方面に歩くこと16分、赤い庇の大川酒店が現われる。「駅と港の中間地点なので、観光客が休憩がてら一杯やっていきますよ」と3代目店主の大川譽師(たけし)さんと妻・りえこさんが笑顔で迎えてくれる。
この日は、最高齢89歳を筆頭に近隣の長老たちが集う日だ。人呼んで「サミット」。長老たちは、「近くで、知ってる顔と一杯やれるのは何よりも楽しみ」「こうやってみんなと飲んでると生きてるって気がするのよ」(いずれも80代)と嬉しい顔で酒を交わしている。
その輪の中には、りえこさんの実父・本杉芳一さん(81歳)の姿もある。
「娘の職場訪問みたいでしょ?私としては、父が元気な顔を見せてくれるのは嬉しいけれど、照れ屋の父と交わす会話は『おかわり』と『お会計』の二言だけ。笑っちゃいますよね」(りえこさん)
店主の母・紀子さん(87歳)も加わって、ちょっとした親戚の集いのようでもある。
「うちは昔っからの酒屋をやっているんだけど、こんな風にお客さんが店で飲むようになったのは、10年くらい前かしら。『立ち話もなんだから、一杯飲んでいけば』と息子がお客さんに声をかけたことがきっかけですね。駅前まで行かなくても飲めるから、近隣の人が集まるようになりましたね」(紀子さん)
「サミット」の日には、長老たちの好物「肉団子」を近所の精肉屋さんから揚げたてで取り寄せたり、たくさんは食べられない客のためにツマミをあらかじめ少量の個包装にして提供したりする3代目夫妻の細やかな心配りと優しさ溢れる接客に、「ここなら安心して飲みに送り出せます」と、長老たちの家族も絶大なる信頼を寄せている。
それにしても、いろんな顔が飲みに集まる店だ。隣のグループでは、”ちょい飲み部の部長”とニックネームがついた60代がなじみの客らと杯を傾けている。
「ここに来たら友達ができたんです。大人になってからの友達は嬉しくてね。ここに集合して、飲みに出かけて、また帰ってきてここで反省会、ってコースがいつものパターン。今日もこれから出動かな」
部長の隣の女性は、「みんな、家はすぐそこなんです。最後はまだそんなに酔ってない人が付き添って、まあまあ酔ってる人を玄関まで送り届けることになっています」と”大人の友情”事情を教えてくれた。