今年の夏も厳しい暑さが続いている。不要な外出を控えて涼しい部屋で読書に勤しめば、熱中症予防にもなる。そんな夏におすすめの新刊を紹介する。
『笑う森』/荻原浩/新潮社/2420円
森で迷子になった5歳の真人。真人は7日後無事保護されるが、どうやって生き延びたのか。コミュニケーションが苦手なASD(自閉スペクトラム症)児の真人は「クマさんが助けてくれた」と言うばかり。犯罪者、ユーチューバーなど、森で真人に食べ物を与えて置き去りにする訳あり大人たちの卑怯と小心ぶりが何故か憎めない。5番目のクマさんって本物の安心毛布みたいだ。
『国道沿いで、だいじょうぶ100回』/岸田奈美/小学館/1540円
車椅子の母、ダウン症の弟との3人家族である著者の当事者エッセイは、この欄でも何度かご紹介済み。『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』はこの7月からNHKでドラマがスタートした。本書のタイトルの由来は現在20代の弟さんが保育園児だった頃に突然国道に飛び出した時のエピソードから。難事と珍事のてんこ盛り人生に陽気に乾杯したくなる。
『倫理資本主義の時代』/マルクス・ガブリエル著 斎藤幸平監修 土方奈美訳/ハヤカワ新書/1320円
日本の小説の内面描写で最近気になるのは“まだ子供が小さい”というのが正義に目をつぶる理由になっていること。道徳的だと雇用主から嫌われ一家の家計を担えない!? 本書は道徳と経済的繁栄のリカップリング(再統合)を提唱する。例えば現代の最高善は「経済的価値と道徳的価値の均衡点」と。日本で先行出版。経済大国から経済強国への意識転換を促されている気がする。
『黒牢城』/米澤穂信/角川文庫/1056円
2021年下半期の直木賞受賞作。小説にジェンダーがあるとすれば本書は男。が、選考委員の桐野夏生さんが「これぞプロの仕事」と評したように読み始めたら止まらない。信長に逆らい有岡城に立て籠もった荒木村重は、信長の使者としてやって来た黒田官兵衛を幽閉する。村重は城内で起こるさまざまな難事件を官兵衛に解かせるが……。史実に忠実な驚きの着地まで堪能する。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年7月25日号