いよいよ本格的な夏が到来。暑い季節だからこそ、涼を取りながら読書でもしてみては。おすすめの新刊を紹介する。
『きれいに生きましょうね 90歳のお茶飲み話』/草笛光子/文藝春秋/1870円
高峰三枝子さんや親友兼高かおるさんに死に化粧を施し、夜中に柿の種を内緒で食べるもお手伝いさんにはすっかりバレていて、差し歯が取れたのを面白がられて前歯空洞のまま撮影した映画も。題名は陰湿な仕打ちもある芸能界で、そんな汚濁にはまみれないと、マネジャーの母上と涙ながらに誓い合った言葉から。中年男性も憧れる草笛さんのいぶし銀の魅力が横溢している。
『野犬の仔犬チトー』/伊藤比呂美/光文社/1760円
保護施設でもらった野犬の仔犬。熊本の我が家にはすでに大型猫2匹とカリフォルニアから連れてきたジャーマンシェパードがいた。そこにこのチトーが加わる。触らせない、怯えて出てこない、散歩もできない。著者が3年の任期で早大教授を務めていたコロナ禍前後の出来事だ。カリフォルニアに置いてきたもう一頭の老犬との再会にもウルッ。犬はいいなあ、好きだなあ。
『明智恭介の奔走』/今村昌弘/東京創元社/1870円
神紅大学の明智恭介が始めたミステリ愛好会、通称ミス愛。唯一の会員である葉村君は探偵明智の助手役を務める。気絶しているところを発見された学内侵入の窃盗犯、下着のパンツを引き裂いていた明智自身の泥酔事件、ちょっとした隙に試験問題を入れたUSBメモリが消える怪事件など全5編。最後のストーカー手紙ばらまき事件では、1回生の頃の初々しい明智君に会える。
『パパイヤ・ママイヤ』/乗代雄介/小学館文庫/715円
初読時から惚れ込んだ小説の文庫化。インテリ自由人の母親がイヤなママイヤと、アルコール依存症の父親がイヤなパパイヤ。そんなハンドルネームで知り合った17歳同士は、木更津の干潟で週に一回待ち合わせ、なにげない会話を通して互いの輪郭を濃くしていく。二度とこない夏、二度と持てないような友。写真好きのママイヤがシャッターを切る場面が未来の思い出のようだ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年8月1日号