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西條奈加氏『バタン島漂流記』インタビュー「人格者よりも欠点がある人の方が面白いし、ロマンよりも生活感を私は書きたいんです」

西條奈加氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

西條奈加氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

 幕府開闢から65年。四代家綱の世に、江戸で尾張家御用の植木類を積み込んだ弁才船が三河沖で遭難し、フィリピン・バタン島まで33日間の漂流を強いられた史実を、直木賞作家・西條奈加氏の最新刊『バタン島漂流記』はモデルとする。

 直接のきっかけはテレビ。『池内博之の漂流アドベンチャー』(2016~2019年、全4回、NHK BS)という番組で、西條氏はその印象的な島の名前を初めて知ったという。

「江戸~明治期の漂流譚と同じことをヨットでやってみるシリーズの、確か第2回だったと思います。船の上で海水から真水を作ってみたり、退屈が最大の敵だったり、バタン島へと向かうその回が特に印象に残ったんです。あの島にはその後も何回か日本の船が漂着した記録も残っていて、海流の関係で流れ着きやすいみたいです」

 そして、本書の主人公で七番水夫の〈和久郎〉にしろ、運よく生還できたから記録に残っただけだとも著者は言い、〈板子一枚下は地獄〉をまさに地で行く計15名の島に着くまでと着いてからを、手に汗握る虚々実々の物語に描くのである。

「私も『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』は好きでよく読みましたし、あと漂流物ではないけれど、『小公女』で全てを失った主人公が生活を一から設えていく場面が大好きで、いつか自分でもそういった物語を書きたいという気持ちはありました。

 ただ史実物って得意じゃないんです。何作か書いてはいますけど、どうしても表舞台に立った偉い人の話になりがちですし、戦や政治には興味が持てなくて。それよりは市井の人や武士でも下っ端の人を私は書きたいし、漂流記でもロマンがどうこうより何を食べて、衣服や寝具はどうしたのかとか、そっちが気になる。

 たぶん私が書きたいのは生活感で、今回も何もない状況下で何とか生き延びようとする和久郎達の生死のかかった生活感が、うまく描けていれば嬉しいです」

 船頭の〈志郎兵衛〉以下、楫取の〈巳左衛門〉と賄の〈久米蔵〉が三役を務め、 38歳の碇捌〈五郎左〉らが中堅。その下に17歳の八番水夫〈淀吉〉までがいて、さらに弱冠15歳で半人前の炊〈桟太〉がいる布陣は、名前こそ架空だが出身地や年齢は史実のままだという。

「船頭が54で最年少の炊が15歳。その間に20~40代がバランスよくいて、ちょっとした会社みたいですよね。船名は少し変えて〈颯天丸〉にしましたけど、船主が知多郡大野村の廻船問屋、権屋で、船員も15人中7人が大野村出身なのは史実の通りで、当時〈ランビキ〉と呼ばれた方法で真水を精製したり、外洋では意外と魚が釣れず、僅かな米と〈豆茶雑炊〉で15人が1か月食い繋いだのも、調書に残っている通りです」

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