【書評】『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』/渡辺将人・著/中公新書/1188円
【評者】与那原恵(ノンフィクション作家)
台湾の民主主義は国際的に高い評価を得ており、英国の調査ではアジアの首位に立つ。だが〈台湾のデモクラシーは極めて若い〉と著者が指摘するように、ここにいたるまで苦難の道を歩んできた。
長く国民党の一党支配による権威主義体制が続き、多くの犠牲を伴った〈「抗議活動」が、集合的記憶として積み重ねられている〉。戒厳令解除は一九八七年、九六年には総統を直接選ぶ選挙が行われ、野党民進党による政権交代が実現したのが二〇〇〇年だ。
しかし台湾社会の特徴は保守とリベラルの対立というより、大きく分ければ「中国ナショナリズム」(国民党)と「台湾ナショナリズム」(民進党)の政治的対立軸が根底にあることだ。
台湾人か中国人かを問う意識調査では「台湾人」との回答が過半数を上回る。とはいえ、中国からの「独立志向」には結びつかず、「現状維持志向」が過半数を占め、近年は「永続的に現状維持」を求める声が増加している。二大政党の緊張関係は続いており、著者はそれが台湾デモクラシーの強靭さだと指摘する。さらに第三勢力も勢いを見せている。
アメリカ政治を専門とする著者は米下院議員事務所などを経て、テレビ局ではアジア外交の記者としても活躍。本書は多数の米国人や台湾人との意見交換や取材協力を得て、いきいきとした台湾論を展開する。
台湾社会やデモクラシーを考える上で外せない要因は「アメリカ」だといい、米国留学経験者が政策やジャーナリズムの変革にもたらした影響は大きく、民進党のみならず国民党にも波及。有権者に与党、野党どちらに統治能力があるのか見極める力を養った。また国際連盟非加盟である台湾が、国際的な存在感を示す背景に、在外台湾人ネットワークの活動や台湾の選挙制度を解説している点も興味深い。
台湾外交部の幹部が国際社会の認知度に関連して〈曖昧さを許容することが生存の助けになるならそれでいい〉と語っており、台湾のしたたかさ、民主主義社会の成熟を強く感じさせた。
※週刊ポスト2024年8月2日号