8月を迎えれば、もうすぐお盆休み。帰省やお出かけの長い移動時間のに読みたい、おすすめの新刊を紹介する。
『日記か 50人、50の「その時」』/坪内祐三/本の雑誌社/1980円
幻の新聞連載コラムの単行本化である本書は、いわば文芸界における“今日は何の日?”。掲載のその日やその前後、文人達は日記に何を書き遺したかを紹介する。日附け優先だから年代は飛ぶ。例えば9月は大正12年の岸田劉生、昭和63年の山口瞳、昭和51年の武田百合子といった具合。日記文学の気取らない濃さと、故坪内氏のブッキッシュな目の取り合わせで文章の精髄を知る。
『海岸通り』/坂崎かおる/文藝春秋/1540円
多彩な作風で注目される著者の芥川賞候補作。海辺の老人ホーム雲母園で週3日清掃の仕事をする「わたし」(久住)は、ウガンダ出身のマリアさんの人なつっこさに親しむ。夫の転勤で去った元同僚、ベンチで来ないバスを待つ入居者のサトウさん、マリアさんとウガンダ人コミュニティ。一見無気力そうな「わたし」の中で正義感と情愛が閃光のように走るシーンが美しい裂け目。
『二月の勝者 ─絶対合格の教室─ 21』/高瀬志帆/小学館/880円
桜花ゼミナール吉祥寺校の黒木蔵人校長のもと、中学受験に挑む小6達を描いたシリーズも最終巻。それぞれの進路が決まり、卒塾会ではしゃぐ子供達の晴れやかなこと。そんな中、黒木校長が腕に付けたミサンガのエピソードが明かされる。自分の挫折より残酷だった親友の断念、新たな夢、無料学習塾への思い。21世紀の課題である“新たな公共”に向かう人々の姿が眩しい。
『オーラの発表会』/綿矢りさ/集英社文庫/770円
「私はオーラが鳴らせるんです」と海松子が言えば「オナラの間違いじゃないの?」と友人の萌音にツッコまれる。題名は一連のこの経緯から。大学進学を機に大学教授の父とオシャレな母に促されて一人暮らしを始めた片井海松子。彼女の大学生活を描くが、実家で充足していた海松子は他者との関わりに目覚めるだろうか? 同世代の人間観察に長けた著者ならではの青春小説だ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年8月8・15日号