1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、暑い夏における競走馬の体調管理についてお届けする。
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夏競馬のパドックでも、馬はバテている様子もなく、闘志を内に秘めつつ、淡々と歩いているように見えるかもしれません。走るのが嫌そうなそぶりを見せることもなく、レースでもしっかりジョッキーの言うことを聞いて、勝負どころでギアをあげてくれる。そんな馬の頑張りには、本当に頭が下がります。
パドックでポタポタ汗をかいていると体調に問題ありなどと言われることがありますね。でも、暑い時期ならば汗をかくのが普通で、むしろかいていない方が心配です。熱が体内にこもっている可能性があります。
夏場に頭角を現わして勝ち星を重ね、秋に向けて着々と賞金を積み重ねている馬はいますが、それは気候とは関係なく、体が絞れ、走りとフィットしてきたということも考えられます。そもそも暑さに強い馬というのはいないと思っています。
この時期厩舎では馬が暑さ負けしないように注意をしています。暑さ負けしてくると、飼い葉食いが悪くなったり、なかなか馬房から出たがらなかったりします。ひどくなってくると目の周りにクマができたり、牡馬だと睾丸が腫れてきたりします。こうなると、競馬で良いパフォーマンスを発揮するのは難しくなってきます。
僕はジョッキー時代に、夏の暑さに負けないよう、水分補給や食事の摂り方などを勉強してきました。人間は普段夏になると冷たい飲み物やアイスクリームを口にして一息ついたりします。
しかし冷たくて美味しいというのは脳が感じていること。レースとレースの合間にカラダに入れるものとして、それがベストなのかというと、そうではないような気がします。長年自分でそういうことを体感してきました。わりと暑さには強い方で夏場の成績もよかったはずです(北海道生まれですが、実は寒いのが苦手です)。