犯人は用心深く警察より一歩先へ
犯人は「かい人21面相」を名乗り、青酸ソーダ入りのグリコ製品を置いたとの挑戦状を報道機関に送り付け、国民を巻き込み始めた。その後、脅迫の標的は丸大食品、森永製菓、ハウス食品工業などに拡大。実際に青酸入り菓子がばらまかれた。
「逮捕のチャンスは何度かあったが、犯人は用心深く慎重で、警察より一歩先に逃げた。それでも西宮市のコンビニの防犯カメラがとらえた『ビデオの男』の映像で犯人が捕まるとみて、大阪府警の次席と『これでなんとかいけそうやな』と喜んだくらい。映像が公開されると、『どこどこの誰に似ていますけど』と電話がかかってきて、反響はすごかった」
グリコ、丸大食品、ハウス食品との取引では(地図参照)、警察が犯人に近づくも逃走されてしまった。「キツネ目の男」が現われた京都と滋賀の現場では大阪府警捜査員が職務質問をかけたいと捜査本部に伝えたが、許可が下りず、姿を見失った。滋賀県では捜査を知らなかった同県警パトカーの巡査3人が不審車に職質しようとしたが逃走される。翌1985年、滋賀県警本部長の自殺後、犯人は終結宣言し、姿を消した。
2000年2月、一連の事件すべての時効が成立した。関わった捜査員数は延べ130万人以上、捜査対象になった人物は約12万5000人。開発氏が静かに語る。
「捜査員はみな命懸けでやっとる。後からはなんとでも言えるけど、その時にどう決断するかが難しい。事件は時効になったが、事件は終わっていないと今も考える元捜査員は多いでしょう」
取材・文/上田千春
※週刊ポスト2024年8月9日号