敗戦から今夏で1979年。戦争を体験した世代の高齢化に伴い、300万人以上もの犠牲者を出した、悲惨な先の大戦に関する記憶の風化が心配されている。いっぽう、世界を見わたせばウクライナやガザなど、未だ戦火は絶えず、さらに海洋覇権奪取を目論む中国、核ミサイルの実戦配備を急ぐ北朝鮮など、我が国を取り巻く状況も大きく変化してきている。
79回目の終戦の日を前に、「あの戦争とはなんだったのか?」「あの戦争で日本人は変わったのか?」などを考えるための1冊を、『週刊ポスト』書評委員に推挙してもらった。
【書評】『反日種族主義 「慰安婦問題」最終結論』/朱益鍾・著/文藝春秋(2024年6月刊)
【評者】関川夏央(作家)
いわゆる「慰安婦問題」のほとんどは韓国側が近年つくり出した「物語」にすぎず、「歴史的事実」には程遠いことを、韓国人学者が特段の勇気と忍耐心をもって「実証」した本である。
日中戦争開始後、軍は民間業者に呼びかけ、戦地で性的サービスを提供する「慰安所」を設定した。それは当時合法であった公娼施設の外地拡大で、軍人の性暴力の抑制、性病蔓延の予防などの理由があったにしろ、感心できることではなかった。
「慰安婦」募集に応じた女性たちの契約は、危険手当と激務の可能性から、前渡し金はおおむね国内平時の二倍、契約期間は半分であった。ほぼ兵隊百五十人に一人の割合で配置された「慰安婦」の総数は、前借を返して帰国した人たちを含め、敗戦までにのべ三万五千人、うち朝鮮人女性は七千人であった。
韓国で「慰安婦」が話題となったのは、戦後四十六年の一九九一年であったが、日本の研究を「不良コピー」したため、ある日突然軍人に「強制連行」された「少女」が「二十万人」などという根拠のない「物語」が独り歩きした。また、自分が朝鮮の村で数十人の女性を拉致したと「告白」、泣いて詫びる「作話症」の日本人がそれを補強した。この虚言を朝日新聞などは調査せずに信じ、のちに記事を取り消した。
一方、一時相当な影響力を持った韓国側のNPO「挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)」は、戦争末期に工場などへの勤労奉仕に出向いた女学生などの「挺身隊」と慰安婦を混同し、「歴史的事実より国民の情緒」という態度を貫いた。歴史をうんぬんしがちな韓国は、それ以上に歴史を軽んじる国なのである。
この本の原題は『日本軍慰安婦 インサイドアウト』であった。それを文藝春秋が『反日種族主義「慰安婦問題」最終結論』としたのは、売りたいという思いのみならず、「物語」横行からの訣別への願いもこめてのことだろう。
※週刊ポスト2024年8月16・23日号