ライフ

【新刊】三島由紀夫賞、泉鏡花賞を受賞した朝比奈秋による芥川賞受賞作『サンショウウオの四十九日』など4冊

雑誌に連載した今年1月までのエッセイ。7月に誕生した労働党政権の話も聞きたい

雑誌に連載した今年1月までのエッセイ。7月に誕生した労働党政権の話も聞きたい

 いつもより時間が確保できるお盆休み。外出でして人混みにもまれるよりも、涼しい屋内でゆっくりと本の世界に浸り、英気を養う休日にしてみては。おすすめの新刊を紹介する。

『転がる珠玉のように』/ブレイディみかこ/中央公論新社/1650円
 英国ブライトンでの暮らしや帰国時の出来事を綴ったエッセイ。コロナ禍での「連合い」(この表記にはこだわり有り)のがん入院、福岡の実母の謎めいた遺品、息子(孫)と父の仲良しぶりなど。面白いなあと思ったのは旅への衝動を「痒い足」(itchy feet)と言うこと。我が地方ではお喋りが止まらないことを「口が痒い」と言う。英語と九州弁に通底するものがあったとは!?

二人分の働きをしてもアルバイト代は一人分。クスッとさせるユーモアも

二人分の働きをしてもアルバイト代は一人分。クスッとさせるユーモアも

『サンショウウオの四十九日』/朝比奈秋/新潮社/1870円
 医師の仕事をする中、突然小説を書き始め、三島由紀夫賞、泉鏡花賞、そしてこの7月の芥川賞受賞と快進撃中の著者。本書の主人公は同じ身体で生きる結合双生児の姉妹で、多重人格のことかと思うが、人格や意識が交替するのではなく別人格として同時に存在するのがミソ。姉妹の父が胎児内胎児だったことなど人体の摩訶不思議な宇宙で、意識とは何ぞやと考えさせられる。

家電をやめ、朝日新聞社も辞め、食事も服も簡素にした50代の青春

家電をやめ、朝日新聞社も辞め、食事も服も簡素にした50代の青春

『寂しい生活』/稲垣えみ子/幻冬舎文庫/825円
思わずふき出す。3.11の原発事故を機に節電に励むも、眺望に惹かれて引っ越した先はオール電化のマンション。迂闊すぎます。でも家電製品リストラが冷蔵庫に及ぶくだりでは猛省もさせられる。便利で豊かな生活の象徴である冷蔵庫は、実は自分で制御できなかった欲望の墓場。題名の「寂」とは仏教用語で煩悩の消えた平安な境地のこと。解説の玄侑宗久氏がそう教えてくれる。

夏休みのレンガ本は、熱くて可憐なこの直木賞作で決まり

夏休みのレンガ本は、熱くて可憐なこの直木賞作で決まり

『塞王の楯』/今村翔吾/集英社文庫/上下巻各880円
本書の斬新さは武将視点ではなく、技能集団の若きリーダーの目線から戦国時代を描いていること。職能好きにはこたえられない。石垣造りの「穴太衆」、鉄砲造りの「国友衆」。前者はいわば守りのプロ。後者は攻めのプロ。実在した両集団が戦にかけたプライドと哲学を、石工・匡介の目を通して描く。後半の大津城の攻防は圧巻。物語の大きさにラストの愛らしさが華を添える。

文/温水ゆかり

※女性セブン2024年8月22・29日号

関連記事

トピックス

インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
PTSDについて大学で講義も行っている渡邊渚さん(本人提供)
渡邊渚さんが憤る“性暴力”問題「加害者は呼吸をするように嘘をつき、都合のいい解釈を繰り広げる」 性暴力と恋愛の区別すらできない加害者や擁護者への失望【独占手記】
週刊ポスト