北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記の指示で制作された朝鮮戦争(1950~1953年)をテーマとした映画『72時間』が、2月の公開からわずか5カ月で上映禁止となり、その後、密かに記録媒体に保存していた映画を見た大学生や国営企業の社員らが労働改造所に送られるなどの厳しい処分を受けていたことが明らかになった。
金氏の指示で制作された映画が上映禁止になるのは異例の事態。韓国側が北朝鮮を侵略しようとしたなどのストーリー展開が、史実と乖離していることなどを鑑みての措置とみられる。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
この映画は、開戦からわずか3日間(72時間)で韓国の首都ソウルを占領するなどといった、朝鮮人民軍の活躍を描いたもの。金氏の肝いりで多額の制作費をかけた映画で、2月に公開されると各企業や学校、役所、軍などの人員が動員され、ヒット作となった。しかし、公開5カ月後の7月に入り、何の前触れもなく急に上映中止となった。
この理由については、いまでも公式な説明がなされていないが、韓国の専門家らの間では、朝鮮戦争の開戦の経緯の歴史的事実が全く無視されていると指摘されている。
映画では戦争開始のきっかけは韓国軍が北朝鮮に侵攻したことになっているものの、実際は北朝鮮軍が韓国領に侵入し、韓国側が準備不足の間に、電撃的に首都ソウルを占領した。
もっとも、韓国が北朝鮮を急襲したのならば、北朝鮮軍が韓国軍の攻撃を跳ね返して、逆に韓国側に進撃したとしても、わずか3日でソウルを占領できるというシナリオには相当無理がある。このような事情もあり、映画は上映禁止措置がとられたとみられる。
しかし、映画自体は北朝鮮国内で評判がよかったため、まだ見ていない人々が隠れて視聴した結果、学生らが8カ月間の強制労働の刑を受けるなどの事態となったという。