1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、“競馬を覚えていくのに時間がかかる馬”についてお届けする。
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3歳未勝利戦が組まれているのは9月1日まで、つまりあと2週間ほど。しかし、このスケジュールは人間が決めたことで、馬には関係ありません。もちろん勝てそうと思えば照準を合わせますが、あまり期限にとらわれないようにガマンしています。強い馬はあっさり勝ち上がってしまいますが、そういう馬はほんの一握り。競馬を覚えていくのに時間がかかる馬も多いのです。
たとえばメイショウソムリエという馬は昨年10月、ダート1600mのデビュー戦で出遅れながらも2着になりました。しかし、このレースは勝った馬が強く、それを追いかけた他の馬が失速したことで、後ろから行ったソムリエがいい脚を長く使って2着に上がることができたもの。勝った馬からは1秒以上離されており、持っている能力の一端を見せてくれたものの、次は勝てると太鼓判を押せるほどではありませんでした。
次のレースでは先行集団につけましたが、流れが速く6着。舞台が中山1800mに替わった3走目はデビュー戦のように控える競馬がこの馬に合って3着。安定して上位に来ているからといって、続けて使うと壊れてしまうこともあるので短い放牧を挟みながら、同じ条件で3着、4着。ジョッキーからはレース後「いい感じだったのに急に止まった。距離が長いのでは?」というようなコメントがありました。
ならばと、次は1200mに。距離適性は感じさせてくれたものの、前の馬をとらえきれず2戦続けて3着、東京の1400mでも勝ちきれません。この時点で9戦して2着2回3着5回、賞金は1000万円以上稼いでくれましたが、なかなか勝てませんでした。
何度も2着、3着になったのならすぐにでも勝ち上がれると期待され、人気の中心にはなりますが、そうそう順番に勝っていけるものでもありません。
そもそも馬というのはあまり先頭に立つのが好きではないのです。群れの中にいるほうが安心できますからね。だからソムリエは馬らしいといえます。