17才で単身上京するや、資生堂の男性用化粧品ブランド「MG5」のCMに抜擢され、瞬く間にスターとなった草刈正雄。たくさん映画やドラマに出演し、多くの女優たちと共演してきた草刈が俳優人生を振り返る。【全4回の第1回】
「初めまして。暑いですねえ」。行きつけだという喫茶店に、はにかむような笑顔をたたえて現れた草刈正雄。その姿はデニムにポロシャツとラフでシンプル。
17才でモデルデビュー、22才で映画デビュー……。半世紀以上もの間、芸能界の第一線で活躍を続け、今年72才になる大俳優だが、物腰は柔らかく、ポツポツとゆっくりした口調で話す。
「50年以上もよくやらせてもらえましたよね。いろいろあったけどあっという間だったなあ。ありがたいです、感謝しかありません」(草刈、以下「」内同)
と言いつつ大きな背を少し丸め、時折まぶしそうに目を細める。頼りなさげな表情を見せるが、それが何とも魅力的だ。見た目の通り紳士的で、想像以上に腰が低い。
美しい女優たちと共演するたびに緊張してしまい……
「ぼくはね、根っからの小心者。ノミの心臓なんです」
と言う草刈。振り返れば、女優とのラブシーンは何度やっても、その都度緊張したほどだという。
「ぼくの映画デビューは篠田正浩監督の『卑弥呼』(1974年公開)で、主役のヒミコ役は女優の岩下志麻さんでした。神々しいほどの美しさでね、フワーっとしたオーラがすごかった。ぼくはヒミコの異母弟のタケヒコという役で、岩下さんとはラブシーンもあったんですが、初めての映画出演ということもあって、ガチガチに緊張しました」
1976年に映画『あにいもうと』で共演した女優・秋吉久美子も印象に残っているという。
「秋吉さんはぼくより2才年下で、当時22才。演技力が飛びぬけていましたね。ほかの女優さんにはないおもしろい演技をしてくれるんです。表情や動きに意外性があって、読めない。とても魅力的で、いい緊張感を与えてくれました」
女優たちの美しさには毎回圧倒され、ラブシーンなどひと苦労。求められる二枚目役と素の自分があまりにもかけ離れ、いつも余裕がなかったという。
「演技……は、できていたのかな」
とつぶやく。