今年で映画デビュー50年を迎えた草刈正雄(71才)。“二枚目”というイメージも強い彼だが、自身は“三枚目志向”だ。草刈が、俳優としての歩みを振り返る。【全4回の第2回。第1回から読む】
田中邦衛との共演でコミカルな演技にハマる
容姿のよさから幸運にも下積みなしでいきなり主演を任され、演技についての指導や訓練を受けずにきた草刈。ひたすら現場でトライ&エラーを繰り返し、芝居にはコンプレックスがあったという。とはいえ、幼い頃から映画好きの母親に連れられ、2人でよく通った映画館に、演技の“師”はたくさんいたと振り返る。
「よく見ていたのは大映や東映の時代劇。そして、森繁久彌さんが主演していた東宝の社長シリーズなどですね。当時は映画館といっても、土の床に椅子を並べただけの簡素な造りでね。館内にお菓子売り場があったので、幼いぼくはその売り場のあたりをうろうろしながら映画を見ていました」(草刈、以下「」内同)
草刈が幼少期から青春期を過ごした1950~1960年代といえば、中村錦之助(のちの萬屋錦之介)の『宮本武蔵』や『一心太助』シリーズ(ともに東映)、勝新太郎の『座頭市』シリーズ、市川雷蔵の『眠狂四郎』シリーズ(ともに大映)、加山雄三の『若大将』シリーズ(東宝)などが人気を博した。草刈はそれらをすべて見たという。
「残念ながら日活の映画館だけ家の近くになく、青春映画はあまり見られなかったのですが……。子供の頃から喜劇を好んで見ていましたね。
東映の時代劇も大好きでした。これがまた独特で、主人公よりも悪役の方が、動きや演技がコミカルなんです。とてもいい味を出していた。当時はまさか俳優になるなんて思っていなかったけれど、それらの演技がすべてインプットされているんでしょうね」
喜劇好きだった草刈が、俳優をやるようになってコミカルな役に惹かれたのは自然な流れだろう。そういう意味で特に、故・田中邦衛さんには憧れを抱いたという。
「邦衛さん(当時45才)とはぼくが25才のときにドラマ『華麗なる刑事』(1977年)で共演させていただきました」
草刈がロサンゼルス帰りの二枚目で、田中さんが鹿児島弁なまりの九州男児。タイプの違う2人の刑事がコンビを組んで事件を解決するドラマだ。
「ぼくは邦衛さんの独特な語り口と、醸し出されるコミカルな雰囲気が好きになり、ぼくもそうなりたいと思うようになったんです。彼の世界観の中に入りたいと。そういう気持ちがあったせいか、二枚目の役だったにもかかわらず、邦衛さん演じる三枚目に引きずられてしまいました。邦衛さんと会話をしていると、台本に書かれていないお茶目なことをしたくなるんですよ。結果、最終回には華麗ではない刑事になってしまいました。プロデューサーには申し訳なかったのですが、ぼくにとっては、邦衛さんとの共演は楽しく貴重な経験でした」
もともと、見てくれる人の期待をいい意味で裏切り、
「この人がこんなことをするの?」
と思わせるのが好きだったという草刈。このドラマで改めて、自分の三枚目志向に気づかされたという。