立秋を過ぎ暦の上で秋を迎えているが、連日のように厳しい暑さが続くこの季節。冷房が効いた涼しい部屋で、読書の秋を先取りしてみてはいかがだろう。おすすめの新刊を紹介する。
『ドラえもん1 50周年記念スペシャル版』/藤子・F・不二雄/小学館/990円
45巻に及ぶてんとう虫コミックス『ドラえもん』。1974年に発売された第1巻の復刻版で、ダブルカバーになっている。内側のカバーは極力当時を再現、外側はキラキラ輝く近未来のデザイン。中身に触れて、ドラえもんってデビューしたときから永遠だったんだなあと改めて思う。1年間限定の発売で、重版の予定はないとのこと。当時のドラえもんに会いたい方はお早めにどうぞ。
『バリ山行』/松永K三蔵/講談社/1760円
関西の外装会社で働く主人公の波多は、同僚達と登山に親しむ。登るのは主に六甲山系。六甲にこんな山の素顔があったのかという驚きもさることながら、社内では目立たない妻鹿さんが山で見せる素顔もキリッと男前。題名のバリとは標準ルートとは違うバリエーションルートの略。社の経営方針変更でリストラの不安を爆発させる波多、妻鹿さんの去就。山小説の魅力も堪能する。
『星影さやかに』/古内一絵/文春文庫/858円
私事ながら、三途の川の手前で戻ってきた母が戦争にまつわる話をダダ漏れさせるのに驚いた。語らねば渡れなかったのだろう。解説の中島京子氏によれば、本書は著者の縁者をモデルに書かれた。この戦争は負けると言って教壇を追われ、夏目漱石的な神経症に閉じ込められた父。その母である傲岸不遜な祖母にまつわるユーモラスな秘密。戦争を挟んで命繁った家族の一代記だ。
『母の待つ里』浅田次郎/新潮文庫/825円
超高級カード会社が提供する高額な「ふるさとを、あなたへ」。大企業社長、熟年離婚男、女性医師が利用し、設定以上の“母”の人柄に癒やされる。温もりのファンタジーであると同時に全て東京というブラックホールに呑み込まれる地方を描く時評的“怪談”でも。僭越ながら先頃全国知事会で話された東京一極集中(=人口減少)問題に異議を唱えた都知事にも読んで頂きたく……。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年9月5日号