厳しい残暑の中で疲れがなかなか抜けないこの時期こそ、無理せずゆっくりと読書する時間を確保してみては? 充実の読書タイムをもたらす注目の新刊を紹介する。
『地面師たち ファイナル・ベッツ』新庄耕/集英社/1980円
前作同様の面白さ。地面師とは土地の所有者になりすまして巨額のカネを詐取する詐欺師のことで、元締めハリソン山中の人当たりのいい冷血ぶりにも磨きがかかる。バカラで一文無しになった元Jリーガーやハニートラップ係のマヤらが釧路の土地を巡り、シンガポールの若き富豪を標的にする。カネ、セックス、暴力、野心。人はどこで“墜落”するのか。キレのいい群像劇でも。
『義父母の介護』村井理子/新潮新書/924円
義母が認知症に。義父母の介護は嫌だったが覚悟する。理由は二つ。物書きとしての好奇心、義父が義母に不満を募らせるのに義憤を感じたこと。とはいえフリーの仕事もあれば双子の高校生男子の世話もある。運転免許証返納や老夫婦にもある男女の嫉妬心、実子(夫)の出番の時期など“嫁”の気持ちを正直に綴った介護記に、よくぞ言ってくれたと共感を持つ人も多いはず。
『方舟』夕木春央/講談社文庫/913円
大学時代の仲間7人で廃墟の地下建築で一夜を過ごすことになった柊一。そこに迷った3人家族も加わるが、朝の地震で入り口が塞がれ、水も浸入する”逆方舟”に。その矢先に殺人が起こり、第二、第三の殺人も。水没までのタイムリミットサスペンスに犯人探しが加わる本格ミステリー。有栖川有栖氏絶賛だが仕掛けの妙より救いのある人間ドラマが読みたいという読者もいそう。
『新 謎解きはディナーのあとで』東川篤哉/小学館文庫/902円
大人気ユーモアミステリー。「新」とあるのは、財閥令嬢にして刑事の宝生麗子に可愛い後輩ができたのと、栄転したはずの風祭警部が国立署に出戻り推理の賑やかしが増えたから。血文字のダイイング・メッセージ、5つの目覚まし時計の謎など、麗子の運転手兼毒舌執事の影山の推理が冴える5編。誰? 櫻井翔主演のTVドラマで十分とか言ってる人は。活字も面白いのだ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年9月12日号