【書評】『朝日新聞が財務省の犬になった日』/大村大次郎・著/夕日書房/1540円
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
財務省が猛烈な財政引き締めに出ている。一般会計の基礎的財政収支の赤字は、安倍政権末期の20年度に80兆円だったが、来年度は4兆円まで減少する見通しだ。5年で76兆円という強烈な財政緊縮のツケは、増税・増負担となって国民にのしかかってくる。
ところが大手メディアは、その事実を伝えない。それどころか、財政破綻を防ぐためには、国民は耐えるべきと喧伝して、財務省の広告塔と化している。その典型が朝日新聞だ。そもそも朝日新聞と系列のテレビ朝日が放映していた『ニュースステーション』は反体制派のメディアで、消費増税にも一貫して反対してきた。私は2000年から2004年まで『ニュースステーション』のコメンテータをしていたので、よく分かる。
しかし、2004年に司会の久米宏氏が降板させられた後、朝日は手のひらを返すように親財務省へと転換した。その最大の要因が、朝日新聞への徹底的な税務調査だったというのが、著者の見立てだ。実は、朝日新聞だけではない。消費増税反対キャンペーンをはった東京新聞を発行する中日新聞も同じ憂き目をみている。
先進国で予算編成権と徴税権の両方を一つの官庁が所管しているのは、日本だけだ。ただ、そのことで財務省の権力は巨大化する。昨年、私は『ザイム真理教』という書籍を出版したが、大手出版社はどこも引き受けてくれなかった。出版不況のなかで、税務調査に入られたら、会社が倒産するというのが理由だった。
強大な権力を持った財務官僚は、特権に酔いしれ、自分たちの緊縮政策が日本をダメにしていることを知りながら、利権を手放せなくなっているというのが、著者の主張だ。本書での著者の指摘はすべて正しいが、私の見立ては、この点だけが違う。財務官僚は、すでにカルト化していて、緊縮政策は教義となっていると私は見ている。
いずれにせよ、国税調査官としての経験を踏まえた著者の分析は分かりやすく、説得力がある。日本の財政とメディアの現状を理解するための最良の解説書だ。
※週刊ポスト2024年9月13日号