9月に突入し、そろそろ「読書の秋」が始まりそう。そんな季節におすすめの新刊を紹介する。
『たぶん私たち一生最強』/小林早代子/新潮社/1760円
高校以来の仲良し4人組。まだ見ぬ男性と結婚して家族を作るより“私達で家族になったほうが早くね?”と同居を始める。冒頭に女児誕生の短いシーンがあり、本書はそこに至るまでの各自の本音と、その後の展開を描く。深く頷く所多々。頭がお花畑と言われそうだが、こんな女性達の声に耳を傾けないから少子化が進む。自民党のおじさま方、いい加減理解しませんこと?
『なんといふ空』/最相葉月/ミシマ社/1980円
23年前の初エッセイ集。編集者が今年出版の『母の最終講義』と対になるものだからと熱心に復刻を勧めてくれた。初読だったが、どのエッセイも味があり、つい読み耽ってしまう。題名は好きな種田山頭火の「なんといふ空がなごやかな柚子の二つ三つ」から。エッセイ2冊をブックエンドに、ノンフィクション作品を並べれば、著者の上に流れた時間がリアルに迫ってくるはず。
『狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部』/門田隆将/小学館文庫/946円
多大な犠牲者を出した1974年8月の三菱重工ビル爆破事件。警視庁公安部が東アジア反日武装戦線「狼」を名乗る犯人達の素性を洗い出し、追い詰める過程を捜査員達の実名入りで再現する。綿密な取材に夢中で読んでしまう。事件から半世紀、親本から11年を経ての文庫化。近年大川原化工機に対する冤罪で賠償命令が出た警視庁公安部。組織には栄光も失態もあるなあと思う。
『子宝船 きたきた捕物帖(二)』/宮部みゆき/PHP文芸文庫/1078円
「きたきた」とは、岡っ引き見習い中で文庫売りもする16歳の「北一」と、長命湯の釜焚き男として働く素性不明の「喜多次」のこと。子を授かると評判の宝船の絵から弁財天が消えた謎や、30年前の殺人事件の真相を探る。著者が生涯書き続けたいとするこの新シリーズは、町から衣食住、人情まで江戸の全てを描ききる小宇宙のよう。2人を見守る周囲の“善”にもほっこりだ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年9月19日号