【書評】『日本鉄道廃線史 消えた鉄路の跡を行く』/小牟田哲彦・著/中公新書/1155円
【評者】川本三郎(評論家)
書名に「廃線」の語があるからよくある廃線跡を歩き思い出に浸る本かと思うが、まったく違う。なぜ廃線になったのか、廃線を防ぎ、鉄道を再生するにはどんな工夫が必要か。廃線という厳しい現実を経済面からとらえた非常に密度の濃い鉄道本。
廃線は基本的には乗客が少なくなり赤字路線になってしまって生まれる。国鉄(現JR)は昭和三十八年(一九六三)に単年度収支が黒字になったのを最後に以後、赤字決算が続き、その結果多くの路線が廃線になってゆく。車社会になったことが大きい。また「被災廃線」という言葉があるように台風などの災害で打撃を受け、そのまま廃線になってしまう例も高千穂鉄道など多い。
廃線がいかに多いか例を挙げて詳しく語られてゆく。鉄道好きには気が重くなるが、明るい話題も多い。具体例が次々に挙げられる。
最近では被災鉄道として休線になっていた只見線が全線復旧したのは明るい話題。兵庫県を走る第三セクターの北条鉄道が地元住民の協力やクラウドファンディングで廃線を免れているのもいい例。さらに三重県を走る名松線(松阪-伊勢奥津)が台風で被災したのを受け一時は廃線に決まっていたのに、JR東海が沿線自治体と協力して復旧させたのもいい話。
JR東海は東海道新幹線以外の路線はすべて赤字だが、そのために廃線にすることはしない。在来線を東海道新幹線へのアクセス鉄道ネットワークと考えているからという。支線が本線を支える。
鉄道が生き残る方法のひとつとして著者は観光目的に特化した観光鉄道を挙げる。この時代にあえて蒸気機関車を走らせて持ちこたえた大井川鐵道がいい例。観光資源がないのに旧国鉄のディーゼルを走らせて鉄道ファンを呼び込んだいすみ鉄道の例もある。廃線を防ぐには基本的に国策で鉄道を維持するのが大事だという著者の考えは納得できる。イギリスではいったん民営化された鉄道が再び国有化されているという。
※週刊ポスト2024年9月20・27日号