現在、65周年を記念する全国ツアーを開催中の吉本新喜劇には、かつて黄金時代を築いた岡八郎というスターがいた。岡八郎の弟子であるオール巨人が、師匠・岡八郎と喜劇人たちの気概について語る。
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昔の喜劇人たちは、ものすごくプライドを持っていたと思います。今の喜劇人が持ってないと言っているわけではないですよ。ただ、師匠たちには、役者や歌手より下だとかいう意識はまったくなかったと思うんです。
僕は1974年、吉本新喜劇の岡八郎師匠(後に八朗)のもとに弟子入りしました。当時、岡八郎と花紀京と言えば、吉本の2大スターでした。僕は翌年にオール阪神・巨人としてデビューしたので、修業期間は実質的には9か月ほどでしたが、とても濃密な時間を過ごさせてもらいました。
ある日、京都祇園のクラブで師匠と飲んでるとき、映画スターの勝新太郎さんが入ってきたことがあるんです。そうしたら「勝新太郎さんからです」といって高級ウイスキーのボトルがテーブルに届けられました。すると師匠は「ママ、悪いけど同じもの返しといて」って。しびれましたね。
たとえば、今の吉本新喜劇の座長が京都で飲んでいて、渡辺謙さんからボトルをいただいたとしましょうよ。そうしたら、お礼を言いに行っちゃうと思うんですよ。僕でもそうします。だって「返しといて」って、ケンカを売りにいっているようなものでしょう? そんな義理はないと人の好意を突っぱねているわけですから。でも当時のスター芸人たちはそれくらいの気概がありました。
八郎師匠は身なりもちゃんとしてはって。質のいいスーツを着て、いい革の靴を履いていました。腕時計もロレックスやったなぁ。金払いもよくてね。みんなを引き連れて飲みに行くと、僕が財布を預かるんです。いつも30万くらいは入っていたと思います。今の100万くらいの価値はあったと思いますよ。
あと、内緒ですが、師匠には愛人がいたんです。彼女を自宅に連れて行き、奥さんにも紹介するんです。「俺が今、付きおうてる女や」と。奥さんもすごく出来た人で「面倒みたってください」って言うわけです。内心はどう思っていたかわかりませんよ。でも、芸人の妻はそういうものやと思っていて、僕も結婚するとき、嫁に「おれは浮気はすると思うで」と言ったんです。そのときは「わかりました」と認めてくれたんですけど、実際に結婚してからは、許されませんでしたね(泣)。