たとえ残暑が長引いたとしても、秋といえば読書! 読書の秋を満喫するためのおすすめの新刊を紹介する。
『フェイク・マッスル』/日野瑛太郎/講談社/1980円
文芸編集者希望だったのに週刊誌に配属された新人の松村健太郎。編集長の命で、ボディビル大会で3位になった人気アイドル大峰颯太のドーピング疑惑を探るためジムに潜入する。健太郎は記者として使い物になるのかという成長小説の要素と、アイドルの薬物疑惑というミステリー要素が巧く融合。ドラマ化されたらアイドル役を誰が演じるか想像しながら読むのも一興かと。
『雷と走る』/千早茜/河出書房新社/1540円
一家でアフリカの国で暮らすことになった7歳のまどか。屋敷の防犯のために番犬を購いに行き、彼女は数頭の中に気弱な仔犬も入れて虎と名付ける。物語はアフリカの日々と、32歳になったまどかの日々を往復するが、虎との“絶対愛”と、ささいなことで揺らぐ恋人との“相対愛”の対比が大人の甘苦さ。ある種の私小説。よくぞ書かれたと思う。一番好きな千早作品になった。
『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』/河合雅司/小学館新書/1045円
目からウロコ。出生率と出生数は違うんだ。施策で出生率が上がっても出産期の女性の人口は減少。人口減少が招くのは高齢社会と労働力不足による生活の質の低下だ。ではどうすれば? 道州制などと言わず、30万人生活圏という案を出しているのが本書の画期。企業も薄利多売から付加価値の追求へと体質改善する。気迫に満ちた筆致。必ず来るこの“現実”を受け止めねば。
『人生の道しるべ』/宮本輝、吉本ばなな/集英社文庫/605円
デビュー間もないばななさんが宮本邸を訪れてから30年近く、円熟の作家同士として語り合った対談集。人生観、死生観、小説観、男女観など、どの話題もプリズムのような燦めきを放つ。興味深いのは宮本氏が年に1度はふと読み返す小説の3点セット。『赤毛のアン』(全10巻)、『夜明け前』、西行の歌集。ばななさんはカスタネダのドン・ファン(という呪術師の)シリーズとか。
※女性セブン2024年9月26日・10月3日号