スポーツ

【張本勲になぐられた男】子供だった高田文夫氏が駒沢球場で「しっかり打てよ」と言い放った選手は「安打製造機」になった

小生意気なガキだった頃の思い出を振り返る(イラスト/佐野文二郎)

小生意気なガキだった頃の思い出を振り返る(イラスト/佐野文二郎)

 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、駒沢球場で見た「東映フライヤーズ」の思い出について綴る。

 * * *
 こんな時代に張本勲の話を1時間もきけるなんて。BSで放送している『鶴瓶ちゃんとサワコちゃん(阿川佐和子)』に先日出演したのだ。貴重。

 想い起こせば私が見たのはもう65年も前の話だ。1964年、東京五輪が開かれるまで世田谷には「駒沢球場」があった。のちに駒沢公園となる。小学生の我々は自転車でいつも田んぼの中、暴れん坊軍団「東映フライヤーズ」を見に行った。

 なんたって張本である。そこに怪童尾崎が入ってきた。スピードガンはあの時代無かったが、私の目では、間違いなく180キロは出ていた。エースは江戸っ子土橋である。浅草の魚屋のセガレ。フランス座の草野球では“やとわれエース”。後ろを見るといかにも下手そうな渥美清と井上ひさしが三遊間に立っていた。後年、私と土橋氏は気が合い『プロ野球ニュース』のオフシーズン、ふたりで“言いたい放題”のコーナーを2年やった。

 東映には毒島といういぶし銀やら、本塁を死守する“ケンカの八郎”こと山本八郎がいた。敵のランナーが本塁へ突入してくると即パンチだった。滅法ケンカが強かった。

 試合が終わると近くに球団の若手選手の寮があって負け試合など真暗な田んぼの中をトボトボ帰っていく。小生意気なガキだった私は、張本を見つけると寄っていき「おい、なんであそこで打てねぇんだよ。しっかり打てよ」など言い放つ。途端に私の頭をパッカーン(昔の話だから大丈夫ですよ)。怖! やっぱり大人のスポーツ選手はこわいと思った。

 翌日この話が学校中に広がり、私は「張本勲になぐられた男」として一躍有名になり、英雄視されるようになった。その後の大活躍はご存じの通り。「安打製造機」であり「広角打法」であり「扇打法」である。東映そして日本ハム。

 ここからの話はテレビで見たのだがいい話。行く球団がなくて困っているところへ阪神の吉田監督から声をかけられた。「おいっハリ、行くとこないんか。なんやったら阪神来るか?」。嬉しくて「ハイ」。すぐに甲子園の近くに小さな土地を買った。

 そのすぐ2日後、巨人関係の偉い人から家へ呼ばれた。「ハリ、お前の好きな球団はどこなんだ」思わず「小さい時から巨人です」と言っちゃった。その声をきっかけに奥のふすまが開き長嶋茂雄が出てきた。「ウ~ン、いわゆるひとつのハリ、巨人軍の為に一緒にやっていこう」と握手された。心は舞いあがった。「2日だけ下さい」。

 意を決して張本は吉田に電話。怒られると思い巨人入りを告げると吉田「そらぁええわ。セリーグが盛りあがる。巨人行きや」。一番大きな心は吉田かもしれない。

※週刊ポスト2024年10月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

タイと国境を接し、特殊詐欺の拠点があるとされるカンボジア北西部ポイペト。カンボジア、ミャンマー、タイ国境地帯に特殊詐欺の拠点が複数、あるとみられている(時事通信フォト)
《カンボジアで拘束》特殊詐欺Gの首謀者「関東連合元メンバー」が実質オーナーを務めていた日本食レストランの実態「詐欺Gのスタッフ向けの弁当販売で経営…」の証言
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《ベイビーが誕生した大谷翔平・真美子さんの“癒しの場所”が…》ハワイの25億円リゾート別荘が早くも“観光地化”する危機
NEWSポストセブン
まさか自分が特殊詐欺電話に騙されることになるとは(イメージ)
《劇場型の特殊詐欺で深刻な風評被害》実在の団体名を騙り「逮捕を50万円で救済」する手口 団体は「勝手に詐欺に名前を使われて」解散に追い込まれる
NEWSポストセブン
戸郷翔征の不調の原因は?(時事通信フォト)
巨人・戸郷翔征がまさかの二軍落ち、大乱調の原因はどこにあるのか?「大瀬良式カットボール習得」「投球テンポの変化」の影響を指摘する声も
週刊ポスト
公然わいせつで摘発された大阪のストリップ「東洋ショー劇場」が営業再開(右・Instagramより)
《大阪万博・浄化作戦の裏で…》摘発されたストリップ「天満東洋ショー劇場」が“はいてないように見えるパンツ”で対策 地元は「ストリップは芸術。『劇場を守る会』結成」
NEWSポストセブン
なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
沢尻エリカ、安達祐実、鈴木保奈美、そして広末涼子…いろいろなことがあっても、なんだかんだ言って「透明感」がある女優たち
女性セブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン