イヤミス(イヤな読後感を残すミステリー小説)を生み出す代表的な作家のひとりとして『殺人鬼フジコの衝動』や『5人のジュンコ』など数々のヒット作を世に送り出してきた真梨幸子さん。悠々自適なシングルライフを満喫してきたというが、あるきっかけから、自分の老後について考えるようになった。
「私は“完全無欠のおひとり様”で、自分の人生を邁進してきました。死ぬときも、むしろ孤独死のほうがいい。下手に発見されて、知らない人に身体を触られたりするくらいなら、いっそ腐敗して形を成さなくなってから見つかるほうがいいとまで思っていました。でも、猫といっしょに暮すようになってから、この子たちを放って死ぬわけにいかないなと考えるようになったんです」
そこで思い立ったのが市販の「エンディングノート」を使い、死後の準備をすることだった。しかしそこには苦い思い出があったという。
「母に『エンディングノート』を書いてもらおうとしたことがあったんです。市販のものを何種類も買い求め、書きやすそうなものを渡しました。でも、どの『エンディングノート』も、なぜか過去の思い出から書かせようとするんですよね(笑)。
母もおっくうになってしまったようで、結局書いたのは冒頭の1ページだけ。その後、亡くなったので必要な情報がまったくわからなくて、遺産整理がたいへんでした」
特に作家である真梨さんの場合、著作権や印税といった特殊かつ重要な資産があるが、こういったものがカバーされている「エンディングノート」は市販されていなかった。また、大切なペットに関する情報を記録するにしても、市販のものでは足りないことに気づいた。