秋が深まるにつれて、だんだんと日が沈むのが早くなってきた。秋の夜長を楽しめるおすすめの新刊を紹介する。
『新しい恋愛』/高瀬隼子/講談社/1760円
面白いな。高瀬さんらしいなあ。表題作はロマンティックラブを暑苦しいと思う主人公が、恋バナ好きの姪をきっかけに、恋人からプロポーズされる前に自分から事務的にプロポーズするというシーンが傑出。ダメ評価で削られる先輩社員への「好き」、好きじゃないのに好きでいてくれる男はキープしておきたい打算(=寂しさ)など、恋愛至上主義になれない男女がすごく“今”。
『新 謎解きはディナーのあとで2』/東川篤哉/小学館/1760円
国立署に勤務する宝生財閥の令嬢宝生麗子刑事、風祭モータースの御曹司風祭警部、率直すぎる新米刑事の若宮愛里。資産家の死体の脇で砕けた大皿、芸能事務所社長が遺したダイイングメッセージ、多摩川河川敷の全裸の変死体など、3人のボケやツッコミで進む珍道中的捜査に、麗子の執事兼運転手の影山が推理の閃光を放つ。3年ぶりの新作でもキャラの愉快さは全開です。
『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』/奥田祥子/光文社新書/968円
定年後という第二の人生をいかに生きるか。本書の美点は、最長20数年にわたって同一人物に取材をしていること。現役時代に立てたプランのいわば“栄光と挫折”集だ。成功と挫折の要因分析も詳しくハウツー書としても役立つ。雇均法第一世代の女性達が活き活きとしているのは、お手本がなかったため“冒険者”にならざるを得なかったからだろう。女性の活力が眩しく嬉しい。
『中央線随筆傑作選』/南陀楼綾繁 編/中公文庫/990円
関東大震災で中心部に住むのが怖くなった与謝野晶子は郊外に700坪の土地を借りる。その荻窪は「名さえ知らなかった程の辺鄙な農村だった」。そんな大過去の風景を筆頭に、私が大学生になって住み始めた半世紀前の懐かしい風景も。私事ながら独仏の文学者だった遠戚の水彩画を包装紙でも知られる洋画家が褒めて下さっていたのは望外の発見。ハッピーな一冊になりました。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年10月17日号