自身にとって初めてのポストシーズンで世界一へと突き進むドジャース・大谷翔平。すでに数々の記録を更新する歴史的なシーズンとなったが、残された唯一の称号が「ワールドシリーズMVP」だ。その頂に到達する条件は、十分すぎるほどに揃っている。
2009年に「MVP」を獲得した松井秀喜
今季の大谷はメジャー史上初の「50-50」を達成し、59盗塁はイチロー(2001年、56盗塁)、130打点は松井秀喜(2005年、116打点)が保持していた日本人シーズン最多記録を塗り替えた。
その先に目指すのは、2009年のヤンキースで松井が日本人として唯一獲得したワールドシリーズMVPだ。大リーグ評論家の福島良一氏が言う。
「大谷がワールドシリーズMVPを獲るには、短期決戦のなかで試合を決める一打を放ち、チームを世界一に導いたという鮮烈な印象を与えること。
2009年の松井はシリーズ通じて打率.615、3本塁打、8打点という驚異的な数字を残した。とりわけ世界一を決めた第6戦はホームランを含む4打数3安打、ワールドシリーズタイ記録の1試合6打点と大暴れ。見事MVPを勝ち取った」
ポストシーズンに入ってからの大谷は、パドレスとの地区シリーズでダルビッシュ有や左のリリーフ陣に抑えられる姿が印象に残るが、福島氏は「調子を落としているわけではない」と見る。
「地区シリーズで同点3ランもあったし、メッツとのリーグ優勝決定シリーズ第1戦も2安打1打点、センターにホームラン級の大フライも打った。
2009年の松井も、地区シリーズやリーグ優勝決定シリーズでは打率2割台と絶好調ではなかったが、要所のホームランなどでチームの勝利に貢献。今の大谷と同じような状態でした。あとは最後の1週間で爆発的な活躍を見せられるかどうかです」
今季はDHに専念する大谷だが、2009年の松井も「5番・DH」での起用だった。当時はナ・リーグがDH制を採用していなかったため、対戦相手・フィリーズの本拠地(第3~5戦)はベンチスタートとなったが、そこでも代打本塁打を放つなど存在感を見せた。
「レギュラーシーズンは守備の貢献がないDHがMVP争いで不利というのが常識で、大谷が今季獲得すれば史上初の快挙。一方、短期決戦のワールドシリーズはもともとDHにもチャンスは十分にある。それは松井が証明しています」(福島氏)
大爆発で勝利に貢献するには、塁上に走者のいるチャンスで打順が回ってくるかも重要だ。
「松井が在籍当時のヤンキースは、1番のジーターや4番のA・ロドリゲスらが出塁して打席が回ることが多く、そこで勝負強さを発揮した。6番に強打者捕手のJ・ポサダがいて、相手は松井と勝負せざるを得なかった。
今季のドジャースも1番・大谷の後ろに2番・ベッツ、4番・フリーマンのMVP経験者が控え、さらにここにきて下位打線が調子を上げてきた。チャンスで回り、勝負が避けられないという条件が整ってきた」(福島氏)