朝晩と日中の寒暖差が大きくなり、秋の深まりを感じられるようになったこの季節。いよいよ本格的な読書の秋におすすめの新刊を紹介する。
『迷惑な終活』/内館牧子/講談社/1870円
終活という死の準備などしないと豪語する75歳の英太。終活の本義はやり残したことをすることだと高校時代のマドンナに謝罪するため新潟に出向く。迷惑な彼女には気づかず、英太はもう一人の同級生女性に“私には謝らないの”と言われ……。都合のいい思い出、都合の悪い過去。男って生来的に自己チューだなあと噴き出す。高齢者の率直な感情テンコ盛り。今回も快読です。
『袴田事件 神になるしかなかった男の58年』/青柳雄介/文春新書/1210円
先の9月26日、事件から58年を経て地裁で無罪判決が出た袴田事件。歓喜した。こんなに時間がかかったのは我が国の再審二重構造のせい。再審請求審(再審をして下さいという訴え)で再審開始の決定が出ても、検察の抗告でイタチごっこが繰り返される。先進国にこんな人権無視の制度はない。控訴期限はこの10月10日。検察は潔く控訴を断念し、袴田巌さんに真の自由を!
『どうして死んじゃうんだろう? いのちの終わりを巡る旅』/細川貂々/晶文社/1760円
著者の分身テンテンと釈迦の高弟あなんが、ソクラテスやキリスト、宮澤賢治など死を深く見つめた賢者達に死ぬとはどういうことかを尋ねて回る。オマル・ハイヤームの詩にボブ・ディランの「風に吹かれて」の原型やゴーギャンの代表作“我々はどこから来て(中略)どこへ行くのか”が見て取れたのは発見だった。「涅槃経」のコミカライズ。涅槃経、不案内でお恥ずかしい……。
『若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語』/ジョー・D・プライス インタビュアー山下裕二/小学館文庫/759円
建築家ライトのお供で入ったNYの瀬尾商店で一目惚れした掛軸「葡萄図」。これがプライス氏の若冲コレクションの始まりだった。通訳悦子夫人との京都での出会い、オクラホマ自宅の若冲展示室、ロスの日本館建設など、山下氏が引き出す若冲ブームの立役者プライス氏の人柄は途方もなく無垢。若冲と言えば今秋、皇居三の丸尚蔵館で「動植綵絵 梅花皓月図」が見られますよ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年10月24・31日号