北朝鮮当局は7月下旬に中国と国境を接する慈江道(日本の県に相当)などで発生した大規模な洪水から避難した住民のなかで、自宅に飾ってあった金日成氏や金正日氏の肖像画や朝鮮労働党の党員証を持ち出せなかった人々に対し、給料の減給や地方へ移転させるなどの処分を下していることが明らかになった。
処分を受けた人々のなかには「命よりも肖像画の方が大事なのか。あまりにも理不尽だ」との声が出ているという。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
北朝鮮当局は9月9日、7月に慈江道や新義州市などで発生した洪水の被害に関する調査グループを設置し、洪水被害者から聞き取り調査を開始した。その中で、洪水被害にあった際、どのようなものを持ち出したかということを訊かれたという。
住民らは当初、質問の趣旨が分からず、「食糧やお金など」と答えていたが、調査グループの担当者は「自宅に飾ってあった金日成氏、金正日氏の肖像画を持ち出せたかどうか」「(党員の場合は)常時身につけておかなければならない党員証は持っているか」について、問いただしたという。
北朝鮮では金日成主席や金正日党総書記に肖像画は自宅の最も目立つ場所に飾っておくよう指示されており、極めて重要なものと教えられている。
北朝鮮の国営メディアは2012年、鉄砲水の際に自宅から肖像画を救おうとして死亡した14歳の女子生徒、韓魯慶さんの死後、彼女に「金正日青年名誉賞」を授与したと報じている。彼女の両親、教師らにも褒賞を授与したほか、彼女が通学していた学校は彼女にちなんで改名されている。
北朝鮮では金王朝の個人崇拝が徹底されており、今回の調査の真の目的も被災者が肖像画にどう対応したかを知ることだったとみられる。
調査の結果、肖像画を自宅に残したまま避難した住民は地方への移転などを命じられ、党員証を紛失した住民は「党員候補者」に格下げされ、給料を減給されるなどの処分を受けたという。