【書評】『検証 大阪維新の会──「財政ポピュリズム」の正体』/吉弘憲介・著/ちくま新書/968円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
失職し、出直し知事選に立候補を表明した兵庫県の斎藤元彦前知事は、「大阪維新の会」の危うさを体現していたのかもしれない。
政策の中身や成果よりイメージ優先で、陣頭指揮をとる姿をいかにマスコミに報道させるか。常に心を砕く一方、批判には過剰に反応し、公益に関わる通報であっても徹底して潰してきた。傲慢で独善的な権力行使は、維新の創設メンバーだった橋下徹元大阪府知事が、「気にいらない記者は袋叩きにする」と語っていた管理手法に通じるものがある。
著者は、「維新の政策の本質的性格」を、人、モノ、カネからなる「財政政策」によって分析。ローカルな「地場政党」が、10年余りで全国的な人気を獲得するに至った秘密をはじめて解き明かした。
看板政策である「身を切る改革」や「大阪の成長を止めるな」といったスローガンの「イデオロギー的粉飾をはぎ取った」先にあったものは、公共の利益よりも「個人の利益に焦点をあてた財政ポピュリズム」であった。
人気取りの手段としての財政ポピュリズムは、マジョリティの意向を尊重するため、マイノリティを踏み台に使う。「所得制限を設けない、私立高校の完全無償化」は、税の還元として府民から喝采を受けた。しかしその裏側で、「心身上のハンディキャップをもつ児童・生徒が通う」特別支援学校の各種教材費や肢体不自由生徒の補助スタッフは「ひっそりと削減」されていたのである。
「大阪の成長」にしても、「部分的な経済データ」を都合よく切り取り、「一部の地域や事業に偏った」成長を欺瞞的に述べていたにすぎなかった。公務員制度をやり玉にあげ、公務員の既得権益を削減するといった政策も、窓口業務などを「大手の人材派遣」会社に付け替えたもので、あらたな利権臭すらする改革だった。行政の本来の役割を歪めた維新の「財政ポピュリズム」は、やがて「私たち全体を貧しくする」との警告は暗示的である。
※週刊ポスト2024年11月1日号