混迷の選挙となることは確実である。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
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けっこういきなりではありました。石破茂首相が正式に首相に就任する前から宣言していた衆議院の解散と、その結果の衆院選の投開票が、10月27日に行われます。どんな結果になるか、これを書いている今の時点ではわかりません。嬉しい結果と受け止める人もいれば残念な結果と受け止める人もいる状況になるのは、どう転んでも確実です。
開票が終わったあとで、選挙の結果についてどう語ればいいのか。選挙に限らず、私たちが政治の話題を口にするときは「意識が高い人に見られたい」「気の利いたことを言う人と思われたい」という“邪念”が付いて回りがちです。しかし、なかなか思惑通りにはいきません。自分ではいいことを言ったつもりでも、「うわ、うっとうしい」「この人、大丈夫かな?」とマイナスの印象を与えてしまうケースもよくあります。
自分の立場やそれぞれの結果別に、株を上げる語り方と株を下げる語り方を考えてみましょう。
【野党を応援していて「嬉しい選挙結果」になった場合】
「ざまあみろ、自民党。国民を舐めるな!」ぐらい言いたい気持ちになりそうです。しかし、どんな場合にせよ、負けた相手に石を投げるのは慎みたいところ。「やっと目を覚ました人がたくさんいてよかったよ」も、一段高い場所から「一般大衆」を見下している気配が漂っていてイヤな感じです。
それよりも、あえて控え目に「今回ばっかりは、これまでと雰囲気が違ったもんね」ぐらいの言い方をしたほうが、情報感度が高くて実は深い見識があるように聞こえるでしょう。「大事なのはこれからだけどね」と勝って兜の緒を締める的な姿勢を見せることで、株を上げてしまうのもオススメ。また、これまでに自民党が重ねてきた“悪事”を勢いよく責めたくなったとしても、いったん落ち着いたほうが効果的な批判になりそうです。
【野党を応援していて「残念な選挙結果」になった場合】
「今回ばっかりは日本国民に心底ガッカリしたよ。みんなプライドがないのかな」ぐらい言いたい気持ちになるかもしれません。しかし、自分とは考えが違う人を「救いがたい存在」のように言ってしまうのは、いささか傲慢。「日本はもう終わったね」と極度に悲観的になるのも、「絶望している俺、カッコイイ」というカッコ悪い魂胆が透けて見えます。
嘆いたり誰かのせいにしたりするのではなく、いったんは結果を真摯に受け止めましょう。「残念な結果だったけど、とりあえずは自分の日常を全力でやっていくしかないよね」と前を向いている姿勢を見せることで、大人の知性や貫録を示せそうです。あるいは「SNSを見てると間違いなく圧勝だと思ったんだけど、世の中はいろいろなんだね」と、情報源によるバイアスについての実感や発見を語ってみるのも一興かも。
【与党を応援していて「嬉しい選挙結果」になった場合】
「ざまあみろ。あんなヤツらが重箱の隅をつついたって痛くもかゆくもないよ」と、ドヤ顔で言いたくなるかもしれません。しかし、嬉しい結果になったからと調子に乗って、考えが違う相手を雑魚扱いするのはかなり恥ずかしい所業。ここぞとばかりに得意気な態度を取れば取るほど、「虎の威を借るのが好きなちっちゃいヤツ」という印象も与えます。
喜びはなるべく顔に出さず、安堵の表情で「正直、今回は危ないと思ったけど、最後の最後で国民の良識が発揮されたってことかな」と控え目な言い方をしたほうが、人間としての奥行きがあるように見えるでしょう。「キレイごとじゃメシは食えないからね」と静かに呟いて、酸いも甘いも噛み分けた人のフリをする手もあります。ただ「さんざん汚いことをされてるけど、その恩恵って何かある?」と言われたら、返す言葉がありません。