長すぎる残暑もようやく落ち着き、涼しい日が増えてきた。読書の秋におすすめの新刊を紹介する。
『さかさ星』/貴志祐介/KADOKAWA/2420円
出だしはまるで〈開運!なんでも鑑定団〉の陰気版。霊能者賀茂禮子がやたらと骨董品や古物に詳しく、一家惨殺の現場なのにアンティーク小説みたいなのだ。底辺ユーチューバーの中村亮太が、親戚の戦国時代から続く名家での事件を記録する。呪物の禍々しさと亮太の「マジか」などの口調のミスマッチがいいヌケ感。貴志氏のホラーは教養の香り高い。今回も堪能しました。
『よむよむかたる』/朝倉かすみ/文藝春秋/1870円
小樽の古民家カフェで開かれる高齢者達の読書会。スランプに陥った作家の安田は叔母から店を任され、読書会を見守る。元アナウンサーの会長、美人会計係、元中学の女性教師、92歳の最高齢女性と彼女に付き添う年下夫。それぞれの人生がハラリホロリとこぼれる温度は薪ストーブのよう。身長176cmの女性が、だだ漏れの能弁で素敵なサプライズをもたらすのにもニッコリ。
『国宝 1』原作・吉田修一 作画・三国史明/小学館ビッグコミックス/770円
長崎の極道一家のぼんとして育った立花喜久雄は、父を亡くし、関西歌舞伎の名門、丹波屋(花井半二郎)の下で歌舞伎役者の修業を始める。半二郎の息子・花井俊介としのぎを削りながら。吉田修一の『国宝』をコミック化。吉田氏は黒子として楽屋に出入りし、歌舞伎を内部から眺めてこの大作をものした。来年は映画も公開に。活字もコミックスも映画も、ゼ〜ンブ楽しみたい。
『灯台へ』/ヴァージニア・ウルフ著/鴻巣友季子訳/新潮文庫/935円
“何も起こらない、でも充実した読書時間になる”というのが本書に対する定説。でも、そんなことありません。最初から物語性豊かで、辛辣な人物評など、英国流のユーモアにも笑いをかみ殺す。英米文学を専攻する学生達の必読書にしておくのはもったいない。学生時代に本書の面白さに目覚めた鴻巣さんの新訳は、明度も彩度も上がりとてもクリア。洗われた名画のようだ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年11月7日号