大逆風のなか、自民党の裏金候補、世襲候補たちの選挙戦も異例のものとなった。世襲なのに親子・兄弟の亀裂に苦悩する候補、したたかに大物の応援を利用する候補など、現場ではそれぞれの“悪あがき”があった。
なかなか地元入りしない父・二階俊博氏
和歌山2区では、かつて自民党の最高実力者と呼ばれ、地元に公共事業を次々と誘致して選挙で無類の強さを発揮した二階俊博・元幹事長が引退し、後継者として秘書の三男・伸康氏が出馬した。「地盤、看板、カバン」の揃った世襲候補だ。
ところが、息子に地盤を譲る重要な選挙にもかかわらず、父・俊博氏はなかなか地元入りしない。
「長男の俊樹氏が地元の御坊市長選に出馬した時は、二階先生が全面支援したから小泉進次郎さんや自民党の大物議員が続々応援に来てくれた。結果は落選だったが、先生の力を十分に見せつけた。今回も二階先生が顔を見せてくれるだけで後援会の動きも違ったのに……」(地元支援者)
地元では、「先生は体調を崩して東京で入院中らしい」との噂も流れたが、千葉で開かれた農業団体の大会では挨拶した。「情に厚い」と言われる俊博氏だけに、どんな事情があるのだろうか。
兄弟に吹く微妙な隙間風
父に代わって選挙を仕切ったのが前述の御坊市長選に落選した元政策秘書で長男の俊樹氏だが、この俊樹氏と後継者である伸康氏は、選挙期間中、近くですれ違っても口を利く様子もなかった。
石破首相が応援に来た時も、兄はスタッフに会場設営や後片付けの指示を出していたが、弟は首相の演説が終わるとさっさと街宣車に乗り込んだ。新人とあって立会演説の持ちネタは「母との思い出」と「家族の絆」の話で、行く先々でそれを繰り返していたが、取材班が現地で密着取材した5日間、兄弟の“絆”らしいコミュニケーションは一度も目撃できなかった。二階系地元議員が語る。
「三男の伸康さんは東京事務所の秘書だったから、地元の人には馴染みが薄い。地元の自民党支部からは長男を後継にと要望していたが、二階先生の亡くなった奥さんが末っ子を溺愛していて、“伸康を後継者に”と言い残したそうです。二階先生も最後は『お前がやれ』と伸康を指名したという。10歳以上年が離れた弟が後継者になって、お前はどうなんだと俊樹本人に聞いたら、『正直、微妙ですよ』と、忸怩たる思いがあるようでしたね」