暦のうえでは、冬の訪れを告げる「立冬」を過ぎた。日に日に寒くなるこの時期、暖かい部屋で読みたいおすすめの新刊を紹介する。
『老後のお金が不安です! おひとりさまマンガ家の50代からの資金計画』/なとみみわ/扶桑社/1540円
9年間同居していた義母を看取り、一人息子も独立。嫁や母の役割を終える中、これからは自分のために生きようと49歳で離婚した著者。自由を謳歌できると思いきや、いざ独身に戻ると孤独だしお財布も心細い。そんな将来の不安に「ふあんちゃん」と名付けた分身と共に向き合う。東京で一番物入りなのが家賃。さてその解決法とは? なとみ版“スローライフの見つけ方”だ。
『生殖記』/朝井リョウ/小学館/1870円
家電メーカーに勤務する30代の尚成は、異性愛による繁殖モデルが主流の世の中で「生産性のない」少数者として生きてきた。その苦悩を描くかと思いきや、数々の種に宿ってきた本書の語り手は“種の生殖行動はもっと多様”とヒト社会の了見の狭さに呆れる。この突き放し感がユーモアとなって小説空間にいい風が吹く。今年の収穫作。ラストで展開される幸福論にもご注目を。
『論理的思考とは何か』/渡邉雅子/岩波新書/1012円
わ〜手強い。というのが第一印象。驚いたのは著者の米国留学時の体験で、戻されたエッセイを米国式の思考で再提出(結論まで変わった)すると評価が爆上がり。つまり目的に合った論理の構造があるのだ。経済領域は米国、政治領域はフランス、法技術領域はイラン、社会領域は日本と四つの型を分析、目的に合った使い分けを薦める。実践は無理でもリテラシー度は上がります。
『もう別れてもいいですか』/垣谷美雨/中公文庫/880円
小さな町に住む58歳の原田澄子は高校時代の友人からきた夫の逝去を知らせる喪中葉書を見て、羨ましいと呟く。澄子は夫のエラそうな物言いにもニオイにも、もう耐えられない。別れたい。でも先立つものがない。離婚経験を持つ友人、弁護士などに話を聞くなどして澄子が独立を果たすまでを共感たっぷりに描く。独身の長女や共働きの次女、弟夫婦など理解者の多さが嬉しい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年11月21日号