何かの物事を判断するとき、なるべく自分で考えようとしても「みんなが言っている」ことに人は影響を受けやすい。SNSが発達したいま、「みんな」はネットで頻繁に目にするユーザーによる発信も含むだろうが、その「みんな」は、果たして本当に事実を反映した「みんな」なのだろうか。臨床心理士の岡村美奈さんが、兵庫県知事選挙をめぐるSNSと、人々が考える「真実」の関係について考察する。
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斎藤元彦知事が再選後、初めて県庁に登庁した。硬い表情で就任式に臨み「これから自分自身も生まれ変わる」と語ったが、集まった県職員らの表情は一様に冴えなかった。当選1回目の初登頂時は、県職員に大きな拍手で迎えられ、挨拶が終わりその場を去るまで拍手が続いていたが、今回、場の雰囲気は冷ややかだった。「皆で一緒に、もう一度頑張っていきましょう」と語りかけたが、職員らの反応は薄い。
斎藤氏は当選当日、選挙事務所で「県民の皆さん一人ひとりが県政を見て、何が正しく、何が真実か、そしてどうあるべきかを判断していただきました。これは県民の皆さん一人ひとりの勝利だと思っています」と述べた。斎藤氏のいう真実とは何だったのか。職員らの反応を見る限り、彼らの真実と斎藤氏の真実には、大きな開きがあるようだ。
17日に行われた兵庫県知事選で、斎藤氏は110万票あまりを獲得して再選を果たした。勝利の誘因は、18日に選挙事務所で開いた記者会見で自身が述べた「SNSが1つの大きなポイントだった」だと言われている。SNSを通じて支持が拡大、Xのフォロワーも急増、某メディアの出口調査では30代までの有権者の6割以上が斎藤氏に投票したという。
だが選挙中から、SNSによる効果を危ぶむ声が聞こえていた。いくつかのメディアで分析された「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」だ。エコーチェンバーとは、SNS上で自分と似たような意見や考え方のユーザーをフォローすることで、同じような情報や記事ばかりがこだまのように繰り返される状況のこと。フィルターバブルは、ネットの検索履歴やクリック履歴によって、自分が見たい情報やニュースが優先的に画面にあがってくるというもの。アルゴリズムによる2つの現象から目にするSNSの情報は、知らぬ間に自分好みに偏り、予想に沿う情報ばかりを重視する「確証バイアス」を強化させる。