美容医療が広がる中で、身体醜形障害などと呼ばれる、自分の外見を過度に気にする病的な状態が注目される。手術を検討している人に対する精神的健康を考慮する考え方が強まっている。
2024年11月に都内で開催された第42回日本頭蓋顎顔面外科学会学術集会では、「こころを整える」というテーマで、林和弘氏(メディカルプラスクリニック新宿統括院長)と原田輝一氏(てらもと医療リハビリ病院)が講演を行い、精神疾患と美容医療の関連性について議論した。
3割が精神疾患と診断された
林和弘氏は、美容外科と精神科の接点について解説し、精神的な弱さを抱える施術希望者が一定数存在することを指摘した。
具体的には、北里大学が2000年から2011年に行った調査結果が紹介された。この調査では、美容外科を受診した140人のうち43%(60人)が精神疾患の疑いがあり、32%(45人)が実際に精神疾患と診断された。このうち多くが抑うつ状態、神経症といった診断を受けた。
特に、鼻の整形を希望する人には精神疾患のリスクが高い傾向が確認された。心理的な弱さを抱える人が美容医療を希望する背景が示される結果となった。
林氏は、こうした精神疾患が確認された人に対して精神的サポートを優先するべきと医師が説明しても、他施設で施術を受ける例が多いことを問題点として挙げた。
海外で精神的評価を受けるべきと勧告
原田輝一氏の講演では、海外での取り組みが紹介された。
精神的評価が義務付けられる動きもある。オーストラリアでは2019年7月から、英国では同年9月から、美容医療の施術前に心理的評価を義務化。これにより、心理的な弱さを抱える人に対する不適切な施術が減少したとされる。
これらの国々では、BDDQ-AS(身体醜形障害評価質問票)を含むアセスメントツールが活用されており、施術希望者の心理的状態や治療への現実的な期待感を確認する仕組みが整備されている。また、医療スタッフ向けのオンライン学習プログラムも導入されている。
さらに、世界医師会(WMA)は、美容医療について、未成年者への美容手術を禁止する声明を出し、精神的健康を守る取り組みを推進している。
国内外で美容医療での心の問題は徐々に重要視されている。日本でも2025年にかけて業界ガイドラインが作られる予定だが、こうした中で精神的評価も注目される可能性がある。
参考文献
SNS時代の美容医療、非現実的な「美しさ」基準との向き合い方、米国形成外科学会が伝える
【プロフィール】
星良孝/ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表、獣医師、ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。
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