香港記者協会(HKJA)主席の鄭嘉如氏はこのほど、鄭氏が記者として働いていた米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)から7月に解雇されたことについて、「不当だった」などとして、香港の裁判所に提訴した。香港各紙が伝えた。
香港ではこのところ、当局の取り締まりにより記者が逮捕されたり、リベラル系メディアの拠点が閉鎖に追い込まれたりするなど、報道機関に対する圧力が強まっており、鄭氏は自身の解雇について、中国との軋轢を避けるためだったのではないかなどと指摘している。一方、同紙は鄭氏の解雇は「通常のリストラの一環だった」と反論している。
鄭氏は、WSJの香港支局で自動車部門を担当しており、同氏がHKJAの主席を決める協会内の選挙に立候補した際に、英国在住の上司である同紙の編集者から、「西側ならともかく香港のような場所ではWSJの従業員は報道の自由を擁護しているとみられるべきではない」と立候補を辞退するよう指示されたという。
しかし、鄭氏は上司の指示を拒否して立候補し、今年6月22日、HKJA主席に選出された。HKJAは2020年に国家安全維持法が施行されて以降も報道の自由を支持する立場を崩していない。
その後、同社は7月17日、鄭氏との雇用契約を打ち切ると宣告し、その理由として「リストラの一環」と説明したが、鄭氏は「主席就任前後の経緯から、リストラの一環ではなく、不当な解雇だ」と同紙提訴の理由を説明した。また「香港の労働部門の調査担当がこの事件を真剣に受け止め、雇用法令に違反した可能性のある私の元雇用主を調査するよう要請する」と主張しているという。
香港の雇用法令第21B条では「従業員は労働組合条例に基づいて登録された労働組合の組合員または役員になる権利を有する。雇用主が、そのような権利を行使した従業員に対して雇用契約を解除したり、罰則を科したり、その他の方法で差別したりすることは、刑事犯罪となる」としており、有罪とされた者には、最大10万香港ドル(1香港ドル19.92円)の罰金が科せられる可能性があるという。
また、同条例では、不当な解雇の場合、労働審判所は解雇された従業員の復職または再雇用を命じることができると規定されている。あるいは、裁判所は、雇用主に対して最終支払いを命じるとともに、従業員に対して15万香港ドルを超えない補償を命じることもできるという。