今年も残すところ1か月を切った。忙しい中でもゆとりを持って過ごしたいところ。読書の時間を確保することでリフレッシュしてみては? そんな師走におすすめの新刊を紹介する。
『その世とこの世』/谷川俊太郎、ブレイディみかこ・著、奥村門土・絵/岩波書店/1760円
東京の谷川氏と英国のブレイディ氏が交わした往復書簡。ことば、詩、音楽など即興のやり取りが弾む。数年前「人に生まれて産着の後は/どんどんコトバで着膨れて(中略)歳をとると厚着が重い」と書いた詩人は、1年前の本書ではどこか身軽(といって薄着ではない)。「この世とあの世のあわい」の「その世」にたゆたう稚児にも似た風情。享年九十二。ありがとうございました。
『ことばの番人』/高橋秀実/集英社インターナショナル/1980円
原稿を書く人で校正者にコウベを垂れない人はいない。名だたる校正者を訪ね、彼らの仕事の仕方や思考法などを聞く。おのずと日本語(漢字や訓読み)の特殊性が浮かび上がってくる。日本語は「正書法のない珍しい言語」なのだとか。著者は村上春樹の『アンダーグラウンド』のリサーチャー(黒子)も務めた。享年六十二。神様が天国お召しリストの校正ミスをしたとしか思えない。
『近くも遠くもゆるり旅』/益田ミリ/幻冬舎/1650円
ゆるり旅とは、観光名所を制覇するような気ぜわしい旅ではなく、自分のリズムでくつろぐ旅のこと。1泊2日のハワイ天国(福島のスパリゾートハワイアンズ)、万平ホテルの喫茶室で飲むジョン・レノンも愛したロイヤルミルクティー、映画とタコス三昧の沖縄。ポーランドとスイスの海外編のほか、珍光景で名高い沢田マンション(高知)へも。旅に連れ出してもらった気分。
『幸村を討て』今村翔吾/中公文庫/1100円
分厚い文庫本。“量”に気圧されて一瞬後ずさりしたが、すぐ前のめりに。大坂夏の陣で真田幸村はわざと徳川家康を討ち取らなかったという設定。家康は絡みついた長年のその謎を解こうと決意。以下、織田有楽斎など最後の戦国武将達の5章が続き(各章にも謎が)、それらを真田一族の父と子、兄と弟の物語が串刺しにする。最終章の緊張感と解放は圧巻。年末の読書にお薦め。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年12月19日号