規格外の活躍を見せる大谷翔平選手は、技術はもちろん感性が素晴らしい。信じられないスピードで進化をし続けている。あれだけ高い順応性があるということは特技であり特殊なことだろう。もの凄く喜ばしいことだ。アスリートが“たられば”を言っちゃいけないが、あえて言わせてもらうと、もし俺が彼と対戦するならどうするか。
左対左だから、見せ球、勝負球は自ずと決まってくる。大谷にも特別な対応ではなく、際どい外でカウントを取り、最後はインコースの勝負球。我々の時代には王貞治という偉大な左バッターがいた。やっぱりいいバッターと対戦できたことが自分の野球人生にとって多大なプラスになっているし、貴重な財産にもなる。技術はひとりだけでどうこうできるものではない。盗める範囲で大いに盗めばいい。技術とは、そういうものだから。
何かに欠けてる感じがした今年の阪神
今回の日本シリーズはクライマックスシリーズ(CS)で勝った横浜DeNAが下克上のごとく日本一になったが、近年そのCSの賛否が叫ばれている。新たなチャンスを与えれば、外野からの声がうるさくなるのはどの分野でも同じだ。だから「これが満点だ」なんて言えない。一番大切なのは、ファンの人に納得してもらうこと。その部分さえ忘れなければ、抜本的な改革を恐れずに進めていくのは大いに賛成だ。
やはり阪神のことは気になるが、今シーズンを振り返ると、どこか足りないというか、何かに欠けてる感じがした。でも言い換えれば、それが「伝統」なんだとも言える。
順調に戦ってきたのに最後で足を引っ張られたというか、一生懸命やっているんだけど、何かが物足りない。それが阪神の“お家芸”じゃないだろうか。成績が悪ければじゃあ指揮官が悪いのか、フロントが悪いのかと言われる。誰がやっても毎年同じことをやんや指摘されるのが、このチームの特色。愛すべきチームだけにそれを脱して奮起を願うばかりだ。
(第2回へ続く)
【プロフィール】
江夏豊(えなつ・ゆたか)/1948年、兵庫県生まれ。1967年に阪神入団後、南海、広島、日本ハム、西武と渡り歩く。1984年に引退。オールスターでの9連続奪三振、日本シリーズでの「江夏の21球」など様々な伝説を持つ。
松永多佳倫(まつなが・たかりん)/1968年、岐阜県生まれ。琉球大卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。近著に『92歳、広岡達朗の正体』(扶桑社)などがある。
※週刊ポスト2024年12月20日号