【著者インタビュー】上田健次さん/『銀座「四宝堂」文房具店IV』/小学館文庫/1巻770円 2、4巻803円 3巻781円
【本の内容】
どこかミステリアスな青年・宝田硯が店主を務める文房具店「四宝堂」を、今日も事情を抱えたお客が訪れる。血のつながらない娘の婚約祝いに何を贈ればいいのかと悩む父親に、宝田はどんな文房具を提示するのか(「リボン」)—ほか、「スクラップブック」「ボールペン」「クリップ」「奉書紙」の心あたたまる全5編を収録した最新巻。
「はっきり言って売れてません」編集者の言葉で
4作目にして累計20万部を超す人気シリーズになった『銀座「四宝堂」文房具店』。
著者の上田健次さんは『テッパン』で2021年にデビュー、「四宝堂」が始まったのが2022年なので順調そのものに見えるが、滑り出しはなかなか大変だったという。
「『テッパン』が発売になって1か月たったときに、お祝いをかねてお食事しましょうと担当編集者に声をかけていただいたんです。その場で、『申し上げにくいんだけど、はっきり言って売れてません』と言われまして。このまま1作で終わるのはしのびないから、すぐに2作目に取りかかりましょうと」
書きたいものやアイディアを編集者と出し合って、その結果、生まれたのが「四宝堂」だという。
もともと上田さんは、ハードボイルド小説が好きで、デビューするまでの20年はそのような分野の小説を書いていた。デビュー作の『テッパン』も、食べ物を題材にしつつ、主人公の少年には確かにハードボイルドのにおいを感じる。
第2作では編集者のアドバイスをいれて、自分が書きたいものではなく読者がいま読みたいものは何かを徹底的に考えたそうだ。
「本が好きな人はどんなことが好きなんだろう? 食べることが好きだったり、喫茶店も好きかもしれない。みたいな話を延々するなかで私がポロっと、『本が好きな人って文房具が好きだったりしませんかね』って言ったんです」
文房具店を併設した書店は少なくない。「親和性はあるかもしれませんね」と編集者も言い、話が広がっていった。
どんな文房具店ですか。店はどこにありますか。店主のイメージは。編集者からの問いかけに答えていくなかで、2階にワークショップができるスペースがあって、そこには書きものができる作業台がある、という「四宝堂」のイメージが膨らんでいった。
銀座の老舗文房具店「四宝堂」を、さまざまな年齢の主人公たちが訪ねてくる。彼らのちょっとした困りごとをさりげなくサポートして解決に導くのが、祖父の跡を継いだ店主の宝田硯である。
「四宝堂」の第1作も、すぐに重版がかかったわけではないが動きは悪くなかったので、最初は書店1店舗だけのフェアから始め、それがうまくいくと、他店にも広げていき、次第に少しずつ読者が増えていった。
「本当に丁寧に育てていただいたんです。限られた店舗での展開のためにポップをつくっていただいたり、営業担当者が、いろんな店舗に足を運んでくださったり、細やかに動いてくださいました」
さまざまな文房具が小説には出てくる。はじめにゲストとして店を訪れるその回の主人公の性別と年齢、名前を決め、鍵となる文房具を決めるそう。万年筆にシステム手帳、大学ノートにメモパッド。なじみ深い文房具が次々、登場する。最新巻の4巻ではスクラップブックやクリップ、奉書紙などが物語の展開に重要な役割をはたす。
近ごろはデジタルでのやりとりが主流だが、長年にわたって使われてきた文房具には懐かしさが呼び起こされる。
文字の乱れや筆圧、書き癖など、手書きの文字には、デジタルデータの情報からは読み取れない、書き手の感情を伝えることがある。
色鉛筆のセットに入る色や、色の名前など、一見何も変わっていないような文房具にも、時代による変化があるそうだ。
「文具プランナーの方にも監修していただいているんですが、古い文房具について書くときは、フリマアプリに出品されている色鉛筆のセットの写真を見て色を確認するとか、自分でも細部を調べたりしています」