上海市人民代表大会財経委員会委員も務めた経済学者、李迅雷氏が、中国政府系研究機関の経済データをもとにして「中国では月収が2000元(約4万2000円)未満の人口は約9億6400万人」とのデータを示した論文を中国最大のインターネット経済メディア「第一財経」に発表。しかし、その後、削除されていたことが明らかになった。
第一財経は削除した理由を明らかにしていないが、中国政府は「貧困問題は解決した」との立場をとっており、当局が第一財経側に何らかの圧力をかけたとの憶測も出ている。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
李氏の研究論文は、北京師範大学の中国所得分布研究所が2021年に発表した調査データを元にしたもの。月収2000元は、年収換算で2万4000元(50万4000円)になる。国際比較可能な世界銀行の基準によると、中国の中間所得者層の年収の下限は約2万6000元に相当するが、この論文データにあてはめると中国では10億人に近い人口が「低所得者層」に属していることになる。
2020年3月、当時の李克強首相は全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で、「中国は多くの人口を抱える発展途上国で、6億人の中低所得者や、それ以下の人々がおり、彼らの月収は1000元(当時のレートで1万5000円)程度だ」と明らかにしたことがあった。
一方で、習近平国家主席は中国共産党創立100周年にあたる2021年、現行基準の農村貧困者(年収2300元以下)9899万人、貧困に苦しむ県832県全てを貧困から脱却させ、地域全体の貧困を解消したとして、「中国の貧困緩和闘争が全面的な勝利を収めた」と発表しており、今回の論文は習氏の「勝利宣言」と矛盾することになる。こうしたことが論文削除の大きな背景になっていると考えられる。中国ではいまだに貧困問題が極めて敏感な問題と言えそうだ。