読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏が亡くなった(享年98)。“メディアのドン”の突然の訃報に、大きな衝撃が広がっている。
中曽根康弘・元首相との盟友関係をはじめとする自民党政治への影響力は大きく、幾度となく政局の仕掛け人となった。2004年に球界再編問題が起きた際は、巨人軍オーナーとして「1リーグ制」を提唱し大騒動となった。2007年には、与党・自民党と野党第1党・民主党の「大連立政権」の実現に向け動いたことでも知られる。
本誌・週刊ポストでは、渡辺氏が話題にのぼるたびに“ナベツネが激怒”“ナベツネの高笑い”といった見出しをつけて批判的に報じた。いつしか渡辺氏側から内容証明が届くようになり、ついに渡辺氏から直接、本誌記者が呼び出される事態となった。身構える記者に、渡辺氏はこう言った。
「いいか、記事のなかで呼び捨てにするな。“さん”をつけろ、“さん”を」
記者が当時を振り返る。
「正直、“そこかよ”と思いましたが、以来、批判的な記事でも“ナベツネさん”と書きさえすれば、内容証明は来なくなった。ナベツネさんは、人としての尊重がある限りは、いくら批判されても許容するという姿勢でした。表現の自由、言論の自由を守ることは絶対という立場は、生涯変わらなかったはずです」
渡辺氏は、自身のことを“ナベツネ”と報じられるたびに、周囲にこう立腹していたという。
「逮捕された人でも、名前のあとに“容疑者”が付くだろう。起訴されても“被告”が付く。それなのになんで俺だけ呼び捨てなんだ! 名誉毀損だ、訴えるぞ!」