【書評】『九条の何を残すのか 憲法学界のオーソリティーを疑う』/木村晋介・著/本の雑誌社/1320円
【評者】嵐山光三郎(作家)
中学生のとき社会科の授業で「憲法九条がいかに大切な法律か」と教わった。「戦争の放棄」は世界に誇るべき規範だ、と信じて疑わなかったから、浪人時代にデモに参加し「安保フンサイ」と騒いだ。
日本が戦争に巻きこまれる危険性を感じている人は、平成26年の内閣府の調査で75%ぐらいだ。現実的な危機感が、軍備を強化しろという方に結びついている。
日本軍が真珠湾を奇襲した昭和16年は私が生まれた年で、その翌年はミッドウェイ海戦でボコボコにやられた。
ロシアのウクライナ侵略は、プーチンが自衛だといっても、ニュース映像でみると、侵略丸見えである。国連総会では圧倒的多数がウクライナ側についた。
最近の共産党は「日本に対する主権侵害があったときは、憲法が改正されてなくても自衛隊を出動させる」と言いだした。
北朝鮮やロシアが武力攻撃をしてきたときは自衛隊を使う、と言っている。「違憲だけれど使う」という混乱した政策になる。集団的自衛権は争点のひとつである。
木村弁護士は古典落語から俳句まで日本文化を修練する人権派弁護士である。集団的自衛権は、昔からある「義によって助太刀いたす」の助太刀である。攻撃を受けている国に助太刀をするという権利である。
長いこと集団的自衛権の行使は憲法を改正しなければならないというのが一貫した政府の立場だったが、安倍政権で変えられたんですね、と本書で木村弁護士に問いかけるのは瑤子という女子である。瑤子さんが、2015年成立の新安保法制の要点をネホリ深く訊く対論形式だから、わかりやすい。
たとえば「公共の福祉」という文言はわかったようでわかりにくくて曖昧だからリスクが高く、これを改正しようという学者はひとりもいませんからね。第19条に「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とあるが「良心」とはなにか、これもわからない。そのへんを木村弁護士が解説してくれます。
※週刊ポスト2025年1月3・10日号