ライフ

【山内昌之氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】『日本人にとって教養とはなにか』言葉の感覚に鋭敏になれば他者の感情を思いやれる

『日本人にとって教養とはなにか―〈和〉〈漢〉〈洋〉の文化史』/鈴木健一・著

『日本人にとって教養とはなにか―〈和〉〈漢〉〈洋〉の文化史』/鈴木健一・著

【書評】『日本人にとって教養とはなにか―〈和〉〈漢〉〈洋〉の文化史』/鈴木健一・著/勉誠社/3850円
【評者】山内昌之(富士通フューチャースタディーズ・センター特別顧問)

 著者は、日本人の教養として〈和〉と〈漢〉の調和、幕末明治から比重が大きくなる〈洋〉の刺激を挙げる。著者はもともと江戸文学の専門家であるが、研究を支える教養と知識の幅は驚くほど広く、そして深い。『古事記』『日本書紀』から始まり、米テレビドラマ『奥様は魔女』で終わる教養書は誰にでも構想できるわけではない。デジタル化と英語重視が進む日本の社会で、日本人としての同一性を失わずに〈和〉と〈漢〉のよさを持ちながら、〈洋〉の基準に即しつつ国際化のなかで自分たちのよさを発揮するにはどうしたらよいか。幼少期からの驚くほど豊かな経験にも支えられて、著者が強調する〈和〉〈漢〉〈洋〉の個性は次のようなものだ。

〈和〉は物事をやわらかく受入れ、時には曖昧さを許容する。これによって外来文明をさまざまに取り込んでいった。自然の豊かさ、それを受けとめる繊細さも〈和〉の特質だ。では〈漢〉の特質は何か。何よりも構想力と、その大きさや豊かさだというのだ。『源氏物語』も、「長恨歌」など白楽天の文学に学んで成立したものだ。また論理性に加えて、なよやかな和語に骨格を与え、引き締まった文体にする硬質さも〈漢〉の魅力であろう。これは漢文で書かれた頼山陽の『日本外史』を読めばすぐわかる。

 もっとも、現代において〈漢〉は分が悪い。〈洋〉に圧倒された〈漢〉は、とっつきにくいだけでなく、何かマッチョ的で男っぽい所があり、当世受けないのだ。これに反して〈洋〉は、ロマンチックで自由で平等で男女平等の現代に合致する。そのうえ、科学性や数値化や公平性にもすぐれている。

 欠点もある。それはあまりにも競争を激しくすることだ。こうして著者は、三つの良さをきちんと意識しながら人生を過ごし、日本語と日本文化を大切にする点こそ教養の基礎であり、充実した成果につながると結論づける。三つを兼備し、言葉の感覚に鋭敏になれば、他者の感情を思いやれるという著者の指摘こそ、21世紀の日本人に必要な導きの糸ではなかろうか。

※週刊ポスト2025年1月3・10日号

関連記事

トピックス

渡米した小室圭氏(右)と眞子さん(写真/共同通信社)
【独占】「眞子と呼んでください…」“NYの後見人”が明かす小室夫妻の肉声 海外生活の「悩み」を吐露、圭さんから届いた「外食は避けたい」のLINE
週刊ポスト
交際が順調に進んでいるSixTONESのジェシーと綾瀬はるか
綾瀬はるか、ジェシーの会食やパーティーに出席し“誰もがうらやむ公認カップル”に 結婚は「仕事に配慮してタイミングを見計らっている状況」か
女性セブン
シューズブランド「On」の仕掛け人として知られる駒田博紀氏
大人気スニーカーブランド「On」仕掛け人経営者が“不倫&路上キス” 取材に「ひとえに私の不徳の致すところ」と認める
週刊ポスト
一家が遺体とともに過ごした“地獄の家”の全貌が明らかに(右/Facebookより)
《“地獄の家”の捜査内容》田村瑠奈被告が頭部を置いた浴室で見つかった「特殊なアイマスク」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
『べらぼう』花魁で称賛集まる小芝風花 “朝ドラ主演待望論”が消滅?その納得の理由
『べらぼう』花魁で称賛集まる小芝風花 “朝ドラ主演待望論”が消滅?その納得の理由
NEWSポストセブン
逮捕時の今村由香理容疑者(時事通信)
「お客様、実は貸金庫に忘れ物が…」三菱UFJ女性元行員・今村由香理容疑者の“バレるギリギリの隠蔽工作”の全貌【被害総額約14億円・貸金庫窃盗】
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告が浴室で被害男性を切除する一部始終が明らかに(中央/ホテルの公式サイトより)
《1時間22分の損壊動画を法廷で…》田村瑠奈被告が浴室で被害男性を切除する一部始終 遺体と自撮り、持ち上がらず「嘘でしょ…」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ジゼル・ぺリコさん(時事通信フォト)
【仏・連続レイプ事件】押収されたパソコンには半裸で眠る娘の動画が…妻には身に覚えのない子宮頸部の炎症、父親による10年間の性被害を母娘が実名顔出しで訴え続け社会現象に
NEWSポストセブン
窮地に追い込まれている中居正広
《中居正広に新たな女性アナ告発報道の裏で》トラブル発覚前に「あの子いいべ…」関心寄せた元NHKアナ 過去に女性歌手らと熱愛も本命は“ちゃんとしている人”
NEWSポストセブン
小室佳代さんの自伝エッセイに頭を抱える秋篠宮ご夫妻(撮影/JMPA)
《小室佳代さんが自伝エッセイを発売》“暴露”があっても出版を中断させることは不可能、秋篠宮家は静観するのみ 眞子さんが“GO”を出した大きな意味
女性セブン
大谷
《“第二の故郷”ロス山火事の緊急事態》大谷翔平、SNSに投稿されたキャッチボール姿は“顔まわりや脚が明らかにほっそり” 二刀流復活への準備が順調な証拠か
女性セブン
人質になっているリリーさん(欧州ユダヤ人会議のXより)
《性暴力と隣り合わせ》ハマスに監禁され続けている19歳女性…父親「中絶に間に合わない」と望まない妊娠を危惧 停戦合意で解放へ
NEWSポストセブン